部下の育て方は管理職にとって重要な仕事だ。同時に多くの管理職を悩ます課題でもある。本屋に様々な「部下の育て方」関連の書籍が並んでいるのもその表れだろう。特に「褒められて伸びるタイプ」を自称する若手が増えている影響か、部下を褒めるべきか叱るべきかは大きな関心事となっている。
ゆとり世代に多く見られる自称・褒められて伸びるタイプだが、その心理は「褒められたい」よりも「叱られたくない」であるように思う。理由はこの世代が抱える2つの特徴にある。
褒められて伸びると自称する理由
1つは打たれ弱さである。オウチーノ総研が昨年、20~28歳のゆとり世代男女に行った調査でも、「ゆとり世代の特徴はなんですか」という問いに対し最も多かった回答が「打たれ弱い」(17%)というもの。ゆとり世代の当人達も自覚していることが分かる。
「誰もが一等賞の運動会」など競争が少なく、失敗や逆境、挫折、叱られる経験を得られないまま大人になったため、こういった事態に直面するとどうしたらいいのか分からず心が折れてしまう。そういった局面を避けるために、「褒められて伸びる」と事前に周囲に知らせることは、ある種の傷つかないための自己防衛手段と言える。
カウンセリングをする中で感じることとして、20代の相談者の場合、何もなければ普通に仕事をこなせるがトラブルがあった際に何かしらの対処が取れず、「どうしよう」とフリーズしてしまうなど、適応障害の方が多いように感じる。
もう1つは自己満足度の低さである。内閣府が若者対象に行った「若者の意識に関する調査」の結果は衝撃的だ。対象が13~29歳と幅が広いが、若者の約半数が「自分自身に満足していない」「自分の考えをはっきり相手に伝えることができない」「自分は役に立たない」「人は信用できない」と感じていることが分かる。さらに同じく若者の7割は、毎週悲しく、憂鬱でつまらないと感じていると回答しており、とにかく自己肯定感や日々の充実感が低いことが顕著だ。
心理学的に言えば人は承認を求める生き物。自分で現状にOKを出せていれば他者からの承認はプラスアルファでしかないので、褒められるに越したことはない。たとえ褒められなくとも、さしたる問題にはならないのだが、自己否定的なら話は別だ。他者からも承認が得られない事態は恐怖でしかない。褒めてもらわなければ非常に困るのである。
繊細な彼らとどう接するか
自称・褒められて伸びるタイプは、褒められても社会人としての成長は得られない。
ストレスが減り心は安定するが、一時的に意欲が高まるだけである。彼らを伸ばすためには、褒めるか叱るか、どちらか一方では足りない。しっかりと褒めた上で、コミュニケーション力やトラブルへの対処法など課題を伝え、克服への道筋を一緒に考え実行させることが重要である。こうして、たくましさという土台を育んで初めて、彼らは知識やスキルを存分に発揮できるのだ。
もうじき新年度が始まるが、新たにゆとり世代が部下なることもあるだろう。そんな時はまず信頼関係を築くことが大切である。褒めなくても、仕事で失敗をしたとしても、「この上司は自分の味方でいてくれる」と思われなければ、心を開いてこちらのアドバイスに耳を傾けてはくれはしない。実際、彼らの多くは、利害関係のないカウンセラーに対してさえ「傷つけられるのでは」と警戒するほど繊細である。まずは聞き役に徹するつもりで、仕事の話ではなく彼らの趣味や生い立ちなどに関心を持ち話させてあげるべきだろう。
同時に、困難を乗り越えることに慣れていないことを考え、一気に成長することを求めず、彼らが着実に実行できるスモールステップを設定し、小さな成功体験を積みませることも意識してほしい。(藤田大、DF心理相談所 代表心理カウンセラー)