選挙活動中から世界中の関心の的となっていたトランプ大統領の「驚異的税制改革案」だが、オバマケア(医療保険制度案)廃止案の撤回や議会内の対立などから、抜本的な提案の公表が大幅にずれこんでいる。

金融機関は今後の方向性の指針として、2014年に米下院歳入委員会デヴィッド・キャンプ会長が提案し、昨年ポール・ライアン下院議長によって発表された草案や、選挙活動中に提示されたわずか4ページのメモ書きに頼らざるを得ない状況だという。

現時点における金融機関の懸念は、国境税やSIFI(システム上重要な金融機関)税の導入、支払利息の税控除廃止などに集中しているようだ。

「テリトリー制法人税」が銀行の利益増加に貢献?

トランプ大統領,国境税,税制改革,
(写真=Thinkstock/Getty Images)

多くの米銀行は現在、法人税の最高水準である35%を納めている。これに対し米金融サービス業者団体「ファイナンシャル・サービス・ラウンドテーブル」のフランシス・クレートンは、この数字を20%まで引きさげテリトリー制(販売者間の競争を回避する目的で、独占販売地域を設定する制度)を組みこむことで、銀行の利益増加に大きく貢献すると提案している。

海外利益に適用される税率も低くなるため、国籍企業が海外に貯めこんでいる利益の本国還流も期待できる。前述したライアン下院議長の草案などでは、現金で保有する海外利益には8.75%(トランプ大統領は10%を提案)、米国への直接資本投資には3.5%が検討されている。

銀行の関心は実際の税制改革だけではなく、いかに円滑に改革が進められるかという点にも向いている。

税控除廃止のよる融資低下の懸念

ライアン下院議長は草案の中で、住宅ローン金利と慈善寄付を除いた支払利息の税控除の廃止を提案している。法人税率の最高水準を引きさげる意図だが、金利から利益を得ている銀行にとっては歓迎できない動きだ。税控除が廃止されれば、融資が落ちこむことも考えられる。

借り手の関心が税控除という優遇措置を失った銀行から、オルタナ融資へと流出する可能性が、英弁護士事務所、デビボイス・アンド・プリンプトンと提携して税法を担当しているマイケル・ボルトン氏などからも指摘されている。

さらには国際M&A(合併・買収)のプロセスを複雑化させる懸念もある。米財務省はすでに昨年4月、海外企業とのM&Aによる節税策を防止する追加規制を発表した。これにより海外に本社を移転させた米企業は、国内の子会社の税控除が制限される。

国境税による海外への顧客流出

金融機関は「国境税」の行方にも多大なる関心を示している。米国で拡大中の貿易赤字対策として打ち出された国境税だが、直接的あるいは間接的に銀行業務に影響をおよぼすと見られている。

国境税を導入している国では一般的に金融機関が非課税対象とされているが、例え米国で同様の措置がなされたとしても、銀行の顧客である消費者や企業に国境税が与える影響は、いずれ金融機関に跳ね返る。消費者の需要が海外に移行しても不思議ではない。特に海外顧客をかかえる金融機関にとっては深刻な課題である。

SIFI(システム上重要な金融機関)税への反発

資産額500億ドル以上の金融機関に「責任税」を課税するというSIFI税は、もともとオバマ政権が提案したものだ。500億ドルの超過分に対して0.035%の課税が提案されている。

現時点ではトランプ大統領は積極的な導入体制を示していないが、SIF税が導入された場合、大手米銀行はこぞって追加税を支払う事態におちいる。導入の可能性としては五分五分だ。法人税引きさげをめぐり議論中のほかの案が議会の支持を受けれないとなれば、トランプ大統領がSIF税導入を最終兵器に利用する可能性は否定できない。

当然ながら銀行を含む大手企業からは猛反対の声が挙がっている。「特に資本形成の基盤となる金融機関が懲罰的な課税対象となるのはおかしい」とし、経済成長の妨げになりかねない危険要素が指摘されている。

いずれにせよ新政権による税改革は、当初期待されていたほど円滑に進みそうにない。米ゴールドマン・サックスは年内のトランプラリーの終焉を予言。改革実施が今年下旬から来年上旬にずれこむと予想しており、「企業の収益に反映されるにはかなりの時間を要する」長期戦の構えだ。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

【編集部のオススメ記事】
2017年も勝率9割、株価好調の中でもパフォーマンス突出の「IPO投資」(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
株・債券・不動産など 効率よく情報収集できる資産運用の総合イベント、1月末に初開催(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)