ライフネット生命,出口治明,読書,経済本,良書
(写真=ZUU online)

ライフネット生命保険を設立し、ネット生命保険という新市場を切り開いた出口治明氏。稀代の読書家としても知られる同氏に、おすすめの経済本や良書の選び方について聞く。(聞き手:ZUU online編集部 菅野陽平)※インタビューは3月9日に行われました。

——今回は出口会長に、経済に関するおすすめの2冊を紹介して頂きます。

物心がついた頃から、僕は本の虫です。ライフネット生命を立ち上げて多忙になってからも、平均すると週3〜4冊は読んでいると思います。最も読んでいた時期は、週に10冊以上読んでいました。僕にとって読書は、歯磨きをするのと同じくらい、当たり前の習慣になっています。

そんな僕が今回ご紹介するのはアダム・スミス著『国富論』と、池尾和人著『連続講義・デフレと経済政策』です。

国富論
『国富論』画像をクリックするとAmazonに飛びます

——アダム・スミス著『国富論』から理由を教えてもらえますか。

今の世界は、いわゆる市場経済が主流です。市場経済というコンセプトを考えだしたのは、アダム・スミスで、『国富論』が原点だと思います。今の世の中を理解するためには、やっぱり原点に立ち返るのが一番だと思うので、アダム・スミスの『国富論』をきちんと読むことはさまざまな場面ですごく役に立つと思います。

歴史に名を残す経済学者の本のなかでも『国富論』はすごく読みやすい。彼は一生に2冊しか本を書いてないんです。『国富論』と『道徳感情論』の2冊を死ぬまで何回も添削し続けたと言われています。ケインズの本も名著ですけれども、僕はスミスのほうがはるかに読みやすい。日本語に訳しても読みやすい。やっぱり原文が読みやすいからだと思います。

すごく読みやすくて、論理が明快ですから、考える力を鍛えるのにも役に立ちますよね。アダム・スミスという優れた脳を持っている人が、当時の数字やファクトをベースに、どのようなプロセスを踏んで市場経済というコンセプトを考え出したのか。その思考のプロセスを追体験することで、考える力が鍛えられるわけです。

アダム・スミスの『国富論』を読むということは、今の経済学の原点をしっかり学ぶということと同時に、考える力を鍛えるという一石二鳥の効果があると思いますね。僕は常々「古典を読め」と言っていますから、そういう意味でも、今の世の中に一番ふさわしい古典の1冊だと思います。

連続講義・デフレと経済政策
『連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析』画像をクリックするとAmazonに飛びます

——池尾和人著『連続講義・デフレと経済政策』についてはどうでしょう。

アダム・スミスが言っていることは市場経済の原理原則ですが、現代の経済はアダム・スミスが生きていた頃に比べると、より複雑になっています。中央銀行の役割も違いますし、スミスの脳にはケインズ的な考え方はなかったわけですよね。

そういう意味では、現代の経済がどのように機能しているのか、どのような政策が実行されているのか、丁寧に解説してくれているのが池尾先生の『連続講義・デフレと経済政策』です。

一問一答式になっていて、すごく読みやすい。しかも高度な内容を非常にわかりやすく丁寧に書いてあるので、アダム・スミスの『国富論』を読んで、経済の原理原則を押さえたあとに『連続講義・デフレと経済政策』をきちんと読めば、今の日本経済の問題点はほぼ理解できると思います。

経済学の分野で、最近4~5年の間に読んだ本では、この本がベストだと思います。従って今回は、経済学分野での古典のベストと、最近出版された本のベストをご紹介しました。

──どうやって良書を探せばいいのでしょうか。

とても簡単です。まず古典は無条件に良書です。なぜなら古典は、歴史・哲学・思想・科学・文学など人間が創造し探求してきたさまざまな分野の知の結晶として、何百年に渡って世界中の人々に読み継がれてきた書物だからです。

新しい本を選ぶときは新聞の書評欄がおすすめです。著名な教授や先生が署名入りで薦めているわけですから。いい加減な本を紹介したら、その人の信用問題にも繋がりますので、自然にインセンティブが働くのです。

僕も昔は、本屋へ行き自分で探していたのですが、ライフネット生命を創業してからはその時間がなくなったので、基本的には新聞の書評欄で本を選んでます。でも新聞の書評欄で選んで「これは失敗だったな」という本は、この10年皆無ですね。

新聞の書評欄は一度に大体10冊くらいを紹介しています。僕は3紙購読していますから、30冊くらいの候補から選ぶわけです。しかも書評を読んでワクワクする本を選んでいるわけですから、外れる可能性は低いですよね。

良い本に出会うのは、実は案外簡単だと思います。良い人に出逢うよりも簡単かもしれません。人は相性や好みもあるので。あと人の場合は、単純に時間が合わないとか、アポイントをもらえないという可能性もあります。

——最後に読者へメッセージをお願いします。

読書をしなくても死ぬことはありません。しかし、知的好奇心を満たすことは人生の醍醐味でもあり、本がその一助になると思います。本業と全く関係ないと思っていた読書が本業の助けになることも多々あります。

興味があるのなら、どんなジャンルでも良いと思います。とにかく読んでみる。僕はよく「人・本・旅」と言っているのですが、たくさん人に会い、たくさん本を読み、たくさん旅をして下さい。それが豊かな人生に繋がると思います。

出口治明(でぐち・はるあき)
1948年、三重県生まれ。ライフネット生命保険株式会社代表取締役会長。京都大学法学部を卒業後、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長など経て同社を退職。2008年5月に60歳でライフネット生命を開業。2012年3月15日に東証マザーズ上場。