“Big Four”とされる世界4大会計事務所(デロイト、アーンスト・アンド・ヤング、KPMG、プライスウォーターハウスクーパース)が、人材採用において「応募者の学歴ではなくエンプロイアビリティ(経営側からみた、雇用に値する、従業員にふさわしい能力のこと)重視」 に切り替えている。
既存の人材採用の常識をくつがえすまったく新しい手法で、より適切な人材発見を目指している。
最も求められるのは学歴ではなく「エンプロイアビリティ」
「Big Four」の新たな人材アプローチについて報じたフィナンシャル・タイムズ紙によると、世界4大会計事務所といわれるだけに新卒採用には合計8万人を超える大学院卒からの応募が殺到するそうだ。応募件数は2008年の金融危機以前の水準に戻りつつある。
2008年と大きく異なるのは求人側のアプローチである。テクノロジーに精通した人材確保が必須となる新たな潮流に加え、社会的流動性や多様化は人材の領域にも押しよせている。「高学歴者ならば仕事もできる」というひと昔前までの手法は、最早通用しない時代だ。
そこで「Big Four」はこれまでの学歴に重点を置いた評価法を完全にとりやめ、代わりに「学生生活をとおして何を達成したか」で採用を決定するという手法に切り替えた。こうすることでコミュニケーション能力、問題解決能力に優れ、商業意識の高い人材を探しだしやすくなるとの判断だ。
英国勅許会計士の国際リクルートメント部門ディレクター、シャロン・スパイス氏は、いまだかつてないレベルで多くの企業が「エンプロイアビリティ」を雇用の最優先事項に挙げているという。
デロイトは面接の際、応募者の出身校や名前を非公開に
例えばEYは「最低300UCASポイント(英大学総合出願機関によるポイント制度 )」という応募条件を2016年から廃止。代わりにオンラインと数値テストが、応募者の潜在能力分析に用いられた。
特に階級制度がいまだに根強い英国では「born with a silver spoon with one’s month(銀のさじをくわえて生まれる)」とのことわざが示すように、裕福な家庭に生まれた子どもは高水準な教育を受け、高収入の職を得るという方程式が出来あがっている。
同じくUCASの利用をとりやめたPwCのリクルート部門ディレクター、リチャード・アーウィン氏は、こうした階級差別的な背景が「将来的に優秀な会計士やマネージメント・コンサルタントに成長するかを見極める判断材料にはならない」 と語っている。
一方デロイトは応募者の基礎学力にかかわる経済的背景や個人状況を重視。「高学歴=有力候補者」という偏見を排除するため、面接官には応募者の出身大学・学校を伝えないという大胆な面接法に切り替えた。さらには、多様性を高める目的で応募者の名前を非公開にすることも検討中だという。
公平な応募環境の提供と求めている人材発掘のチャンス
“Big Four”の新たな採用法は応募側に公平な就職活動環境を整えると同時に、採用側にも本当に求めている人材を発掘する機会を創出する。
前述したとおり、“Big Four”「Big Four」を含む多くの企業が求めているのは、エンプロイアビリティに長けた即戦力と持続性、協調性のある人材だ。責任感・チームワーク・積極性・成長意欲・目標指向などが、学力そのものよりも重視される時代に移行しつつある。
それでは実際の大手国際企業の採用プロセスはどのようなものなのだろう。“Big Four”の中で最も新規採用枠が大きいPwCは、4万件のオンライン応募を心理アセスメント、数値・論理的推論テストで1万1500人に絞りむ。電話インタビューの結果から5000人が面接に招かれ、さらに3000人がシニア幹部との面接に進む。そしてようやく1700人から1800人が採用される。PwCの倍率は25倍、EYは16倍、KPMGは28倍 (FTデータ参照)という超難関である。
しかし応募環境の改善が可能性を大いに高めてくれるだろう。
(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)