要旨

  1. トランプ大統領は、選挙期間中から保護主義的な通商政策を主張していたことから、世界的な保護主義政策の広がりを懸念する声が強まった。通商政策が選挙の主要な争点となった背景は、米国の貿易赤字が長期間持続しているほか、米国民の間にも中国を中心に製造業雇用が奪われているとの不満がある。
  2. トランプ政権発足後、閣僚人事で保護主義的な政策を主張する閣僚が任命されたほか、3月初に発表された通商政策課題報告書では、多国間通商交渉の枠組みである世界貿易機関(WTO)を軽視し、超大国である米国の国益をより反映させ易い二国間交渉を重視する米国の姿勢が鮮明となった。
  3. もっとも、政権発足から3ヵ月が経過したものの、通商政策で中心的な役割を果たす米通商代表部(USTR)で通商代表が未承認となっているほか、政権スタッフの任用は大幅に遅れており、通商政策の立案能力には疑問符が付いている。実際、先日の日米経済対話でも、具体的な政策に踏み込むことが出来なかったことが示されている。
  4. 一方、対中国政策では、為替操作国認定が見送られたほか、NAFTAの見直しについてもトーンダウンしており、これらの通商政策では選挙公約からの軌道修正もみられる。このため、トランプ政権の通商政策は、当初懸念された貿易戦争の可能性は、現状では低下しているものの、通商政策の政策立案はこれから本格化するため、今後の動向には依然として不透明感が強い。