ドナルド・トランプ米大統領は5月1日、「条件さえ適切であれば、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と直接会って対話してもよい」との考えを示した。ミサイル発射実験を繰り返し、核実験の実行をほのめかす北朝鮮に対し、そうした挑発行為を許さない意思を強く示しつつも、平和解決を落としどころにしたい意向をにじませている。

ロサンゼルスやサンフランシスコなど米西海岸の大都市に核弾頭を撃ち込める大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発進展を北朝鮮当局が公言するなか、米国内でも関心は高まる一方だ。米CNNなどが実施した4月下旬の世論調査によると、米国民の37%が「北朝鮮は米国にとって直接の脅威だ」と回答するなど、注目度が増している。

とはいえ、政治エリート層の間では米国による北朝鮮攻撃説や勇ましい主戦論は見られない。逆に、「北朝鮮を非核化するのは現実的ではない」「北朝鮮の軍事力を侮ってはいけない」「結局、トランプ政権はオバマ前政権の『戦略的忍耐』政策を受け継ぎ、中国に望みを託すしかない」などの本音・弱音が出ている状況だ。

また、経済エリートたる投資家たちも米朝緊張激化に伴い、地政学的リスクを考慮した売りを出し、株式相場やドルが下げることもある。しかし、そうした反応は現在のところ限定的なものに留まっている。

なぜ米国の政治エリートや市場は、日本人ほどの危機感や切迫感を持たないのか。探ってみよう。

確実に存在感を増す北朝鮮

米国,北朝鮮
(写真=Thinkstock/Getty Images)

トランプ大統領の就任以前の歴代政権に対しても、北朝鮮は核実験やミサイル発射を通して、歪んだ形で「振り向いてください、交渉してください、認めてください」との求愛メッセージを送ってきた。

だが、どの米政権も北朝鮮に非核化を要求するばかりで、「非核化すれば途端に、米国はリビアや旧ユーゴスラビアで起こったような政権転覆を支援する」と見抜く北朝鮮とは話が全く嚙み合ってこなかった。米国が「非核化」という北風を吹かすほど、北朝鮮はその「核」というコートをより固くまとうのである。

そのため、北朝鮮は米国にその体制維持を認めさせようと軍事開発に邁進し、米シンクタンクが「核弾頭30発」と推定する核の力を誇示するようになり、ミサイル能力もトランプ大統領自身が認めるほどに向上してきた。

その脅威が無視できなくなったトランプ政権は従来と比較してより強く、北朝鮮が絶対に受け入れられない非核化を迫るようになり、米メディアで「北朝鮮」の国名を聞かない日はなくなった。

米投資サイト『シーキングアルファ』では、毎朝配信する市場ハイライトメールで、必ず最新の北朝鮮情勢を報告するようになった。それだけ、多くの投資家にとっての関心事なのだ。4月12日には、ダウ平均株価が米朝開戦を意識した「地政学的脅威」のため、60ドル近く下げる局面もあった。

だが、それ以降はトランプ大統領が北朝鮮に対する戦争を示唆する発言を重ねても、北朝鮮が「越えてはならない一線」を越えたと見られるミサイル発射を行っても、市場の反応は薄い。投資家たちは、「米国は結局、北朝鮮を非核化できず、状況はこれまでと変わらない。北朝鮮も、体制を守るために米国と全面戦争をする愚かな真似はしない」と見抜いたかのようだ。

変化は起こらない

一方で、米シンクタンクの専門家や政治家たちは、「北朝鮮の戦力を侮るな」と繰り返し警鐘を鳴らし、危機感自体は高まっている。

米国大陸部よりずっと北朝鮮に近く、近いうちにミサイル射程に入ることが確実視されるハワイでは、元軍人で米下院軍事委員会メンバーのツルシ・ギャバ―ド下院議員が、「ハワイは、北朝鮮のミサイルの脅威にさらされており、カウアイ島に配置した迎撃システムを強化する必要がある」と地元で語る一方、コリーン・ハナブサ米上院議員は「心配し過ぎだ。北朝鮮はハワイより、(西海岸の主要都市である)シアトルを狙うだろう」と反論するなど、意見が割れている。

こうしたなか、米国の北朝鮮に関するオプションは限られているとするところで、専門家の意見は一致している。

諜報情報の専門家であるダニエル・アミック氏は、「トランプ大統領が北朝鮮を攻撃するなら、将来的に米国を悩ませることになる北の各種攻撃能力を残してはならない」と主張し、限定戦争というオプションは政権になく、やるなら全面戦争を覚悟しなければならないと説く。遠回しに、その決意が今のトランプ政権にはないと示唆しているわけだ。

またトランプ大統領は4月26日に100人全員の米院議員をホワイトハウスに召集して北朝鮮情勢について説明したが、政策オプションに中身がなく参加者を失望させた。そもそも米国に対北朝鮮で非核化の目標を達成するためのカードが実際に手中にあるか、というレベルの問題だ。

カーネギー国際平和基金のジョン・ウルフスタール研究員は、「米国が理性を保ちつつ北朝鮮に対する『非理性的』なチキンレースを行えば、勝ち目はある」とする。だが同時に、「それは極めて困難だ」という。

結局、米国は中国頼みになるが、「中国は北朝鮮に十分な圧力をかけていない」(米CNN)との見方が支配的だ。となれば、オバマ前政権の「北朝鮮に対する戦略的忍耐」を踏襲する以外、トランプ政権に残された道はない。『ワシントン・ポスト』紙のファリード・ザカリア論説委員は、「結局元の姿勢に戻ってしまうのであれば、トランプ大統領の勇ましい発言は、『米国はやはり弱い』との印象を強めてしまう」として、強気の発言が逆効果になると予測する。

現実的な落としどころとして、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニスト、チャールズ・クラウトハマー氏は、「米国は中国に対し、①中国が北朝鮮をコントロールしなければ、米国が1991年以来初めて韓国に戦術核を戻すことになり、中国にとって好ましくない、②北朝鮮危機が悪化すれば日本の核武装につながり、それは中国にとって最も避けたい事態だ、と迫るべきだ」と主張する。

日本の核武装化の脅威が、中国をして北朝鮮の挑発をやめさせるとの主張は日本人にとって興味深い。だがそれは、米国が北朝鮮と開戦する決意がないことの裏返しであり、米エリートの間にある「中国頼み」の無力感を象徴している。

それが、習近平中国国家主席の持論である「二大超大国の米中でアジア太平洋地域の覇権を分かち合おう」という主張に米国が無意識に同意してしまっていることになるからだ。北朝鮮との米国の一連の「やりとり」は、米国の力の相対的な衰退を世界に見せつける結果に終わりそうだ。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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