電子人気に便乗し、安全基準を満たしていない自家製電子たばこや高濃度のニコチン・リキッドが、闇市場で出回っているという事実に警鐘が鳴らされている。

2015年に英公衆衛生サービス(PHE)が「たばこより95%人体への害が少ない」 と発表したが、米保健福祉省は販売規制を強化するなど、「実は従来のたばこより有害」といった疑念を打ち消すほどの信用を得ていない。

PHE「電子たばこはまったく無害というわけではない」

PHEは2007年から毎年、1万2000人の喫煙者の習慣や広範囲にわたるたばこ規制について分析し、2015年に英国260万人の電子たばこ愛用者を対象に実施した調査報告書を発表した。

PHEのケヴィン・フェントン教授は、「電子たばこはまったく無害というわけではない」と前置きしたうえで、タールやヒ素といった通常のたばこに含まれる有害物質が、電子たばこにはほとんど含まれていないことを、「人体への害が少ない証拠」として挙げている。

また回答者の40%が元喫煙者、60%が重度の喫煙者である事実が示すように、喫煙あるいは節煙の手段として、電子たばこが非常に有効であることなども証明されている。

ヘビー・スモーカー歴20年以上だった筆者自身も、加熱式たばこで大幅な節煙に成功したため、この点については同意する。現在はニコチンゼロのリキッドで十分だ。ニコチンパッチやニコチンガムなど、既存の喫煙グッズでは、何度も挫折した。

米保健福祉省は若年層の電子たばこ利用に懸念

しかし電子たばこの歴史はまだまだ浅いため、長期的な人体の影響についてはいまだ不明である。

米国ではやけど、呼吸器疾患、心血管障害を含む健康被害報告が増加しているほか、頭痛、のどの痛み、鼻血といった、軽度の症状も報告されている。また米保健福祉省 は昨年、電子たばこによる未成年や20台前半の成人への影響を懸念し、未成年への販売禁止、および身分証提示を義務化するなどの対応策をとっている。

世界的な健康志向やたばこ産業規制などが、総体的な電子たばこの需要を後押しし、さらにはそうした影響が若年層にも移行しているという。米保健福祉省は若者に警告を呼びかけるとともに、電子たばこメーカーに若年層を狙った過度なアプローチを慎むよう、要請している。

闇市場ではニコチン濃度20㎎のリキッド、巨大電子たばこなどが流通

現時点でほかに挙げられている主な懸念は、闇市場などで出回っているニコチン濃度の高いリキッドや自家製電子たばこなど 、安全基準を満たしていない危険な商品だ。

欧米ではニコチン入りのリキッド販売は合法である。筆者の知る限り、例えば英国ではリキッド1mlにつき、濃度2.5㎎までのものが購入できる。しかし回答者の6%が、現在は違法であるはずのニコチン濃度20㎎というリキッドを密かに利用している。

本来であれば、電子たばこ利用者の多くが喫煙・節減を最終ゴールにしているため、徐々にニコチン濃度の低いリキッドへと切り替えて行く。しかしニコチン中毒が深刻であるほど、切り替えが難しく、「ヘビー・スモーカーほど、ニコチン濃度の濃いリキッドを大量に摂取してしまう傾向が強いという。

こうした層をターゲットに、闇市場では、違法な量のニコチンを含むリキッドが販売されているほか、本体やリキッド用容器が異常に大きな電子たばこまで、様々な商品が手に入る。筆者も一度、小型ラジオサイズのお手製電子たばこを小脇にかかえ、もうもうと煙を吐いている男性を見かけたことがある。それが電子たばこ(のような物)であることに気づくのに数秒を要したが、真っ先に「逆に健康に悪いのでは」という疑問が頭をよぎった。
安全性を無視した商品の流通を防止する目的で、英国では今月から本体およびリキッド用容器のサイズ基準を定める規制が導入されているが、効果のほどを見極めるにはまだまだ時間を要するだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)