Facebookがビジネス向けSNS「Workplace」の日本向けの提供を始めた。「ビジネスに活用できる」と宣伝するSNSは数多く出ているが、他の類似サービスと比較してWorkplaceはどのように違うのだろうか。

米国では既に2014年から展開中

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(写真=Syda Productions/Shutterstock.com)

Facebookでは、2014年1月よりテスト運用として、Workplaceの前身である「Facebook at Work」というシステムをクローズド・ベータ(試作品のベータ版を限られたユーザにのみ公開する)で提供していた。

比較的長い検証期間を経て、2016年10月より現行の「Workplace」という名称に変更されて正式公開となった。そして今回の日本向けの提供開始となるが、既に日本でも先行して300社を超える企業が導入している。またグローバルでは1万4000を超える企業や組織が導入済みであり、既にかなり大きなユーザ数を持っていると言って良いだろう。

政府機関などの保守的な組織での運用も可能とした設計思想

Workplaceは、その導入規模と製品の性格から考えると「エンタープライズ」商品と言える。主な機能としてはチャット、ビデオ会議、レポートラインに沿ったドキュメントの提出、ファイル共有などであり、同様の他のサービスと大差あるものではない。ドメインは一般向けのFacebookとは完全に独立したものが用意されるが、UIの部分ではFacebookに準拠したものが使われるため、使い勝手の部分でFacebookと類似したものを提供している。

ユニークな点としては、「Facebook at Work」の時代から一貫して「保守的な業界や政府機関などでも使えるビジネス向けSNSを目指す」と明言し開発が進んでいる点であり、もっとも顕著な例としてはシンガポール政府が自国の公務員14万人を繋ぐSNSをWorkplaceで構築している例が挙げられる。

ビジネス向けのSNSでは管理機能があり、使われ方などの分析が重要となるが、Workplaceでは上位のPremium版で管理機能が用意されている。またデータの収集と蓄積に関しては、Facebook側が持つのではなく、組織側が独立して持つ形となるため、完全にクラウドに情報を格納することに抵抗がある組織に対しても柔軟な運用形態を提供している。

また自動会話機能、チャットボット機能も搭載しており、事務処理の円滑化を可能としている。経費精算などの事務処理向けのボットを作り、スキャンした領収書の画像を送り、その他の煩雑な情報をチャット形式で回答し申請を行う、といった事を自動化することで、大幅な省力化を実現できる。

最大の特徴はアクティブユーザ数による料金制度

Facebook上のビジネス活用としては、既にビジネスアカウントによるサービス提供がある。企業が自社のFacebookページを持ち、広告活動を行うことが出来る。その広告は何件ユーザにリーチしたかによって料金が変わってくるが、それと同様の料金制度をWorkplaceでも導入している。

通常このようなSaaSにおいては、基本機能は無料で使えるが、上位機能は1ユーザ当たりいくら、という課金制度の二本立てにしているものが多い。Workplaceの競合サービスとしては、日本ではLINE WORKSやチャットワーク、海外においてはSlackなどがあるが、そのほとんどがサービスの機能に応じた料金xユーザ数という料金形態を持っている。Workplaceも似たような料金形態を持っているが、そのユーザ数の計算が「月間のアクティブユーザ数」という点がユニークである。つまり社員の中でも使わないユーザがいたとしたら、そのユーザの分の課金はされないということになる。広告の「出来高払い」のような感じだが、これなら固定費用の大きさを考慮することがなく、例えば非正規雇用が時期によって多くなるという場合でも、そのすべてにWorkplaceを導入できる事を可能にしている。

無料版ではできない管理機能を追加したPremium版は、1000人までの組織では一人あたり月額3ドル、9000人までの組織では月額2ドル、1万人以上の組織では月額1ドルとなっている。

似たようなサービスがある場合、ユーザは何をもって導入判断を下すのか

繰り返しになるが、Workplaceの機能は、古い概念から考えればグループウェアである。社員同士のコミュニケーションを容易にし、ビジネスに関するアイディアを共有することで、組織内部の生産効率を上げ、ひいては売り上げの向上に繋げる。これがビジネスSNSの導入目的であり、それはグループウェアと呼ばれていたころから普遍的な要求である。

ところが、グループウェアという概念の頃から比較すると、「ビジネスに活用できるSNS」とうたうサービスは爆発的に増え、一体どれだけの数の物があるか不明なくらいである。その場合、多くのユーザが知っているものがユーザ側の抵抗感が少なくなるのは確実である。UIの多くをFacebookと共通化したWorkplaceを提供するとなると、もちろんFacebookを個人で活用しているユーザにとってはなじみのあるものであり、その心理的な抵抗感は少なくなるだろう。Workplaceは、その点ではかなり有利であり、機能的にも他のサービスと遜色無いとすれば、日本国内においても成功する可能性を秘めていると考えても良いだろう。(信濃兼好、メガリスITアライアンス ITコンサルタント)