自動車レースの最高峰、フォーミュラワン(F1)。近年はテレビの視聴率も世界中で低下し、特に日本では日本人ドライバーの参戦が無くなり、テレビ中継も地上波やBSでは見られなくなるなど、人気の低迷に拍車がかかっている。昨年後半からF1のオーナーが変わり、様々な場所でファンはその変化を感じ始めている。

F1の資産価値は44億ドル

F1
2017年バーレーングランプリ(写真=cristiano barni/Shutterstock.com)

昨年までF1の株式の多くは、ルクセンブルクにあるCVCキャピタル・パートナーズが握っており、10年前の買収額は20億ドル(約2231億円)だった。CVCキャピタルは投資ファンドであり、日本では「すかいらーく」の買収などで知られる。

2016年9月、アメリカのリバティ・メディアが85億ドル(約9485億円)で買収したが、この際F1の資産価値は44億ドル(約4910億円)と算定されている。

この他にも、F1に参加するチーム(コンストラクター)ごとの資産価値も算定されており、こちらは毎年フォーブスによって発表されている。サッカーやNFL、NLBなどのチームが上位を占める中、フェラーリなどの有力チームが上位に食い込んでいる。しかし年々その順位は低下し、2016年のフォーブスの発表したリストでは、トップ50にF1チームの名前はない。

他のスポーツと比較すると複雑な利益分配システム

F1は他のスポーツと比較すると利益分配のシステムが複雑である。テレビ放映権料、広告収入料などから利益を得るのは他のスポーツと変わり無いが、チームがそれぞれのスポンサー料などを得るものを除けば、F1の興行団体がそれらを一括して受託し、参加するチームに分配する仕組みとなっている。

商業権のまた貸しなどもあるため、ここでは詳細な説明は割愛させて頂くが、おおむね強いチームが多額の分配金を受け取り、弱いチームはほとんどそれを受けられないという状況となっている。

強いチームにはスポンサーも集まり、多額の分配金と相まって資金も潤沢となる。有力ドライバーを雇ったり、さらに速いマシンを作ったりすることが可能となるため、さらに強くなれる。

反面、弱小チームにはスポンサーが集まらず、分配金もほとんど貰えず、ドライバーが持ち込むスポンサーに頼らざるを得ず、速いマシンを作ることもできない。強いチームと弱いチームの差がハッキリとしており、その差が埋まらないのもF1というスポーツの特徴だ。

アメリカ資本となりファンサービスに力が割かれるようになった

リバティ・メディアはアメリカに本社があるメディア関連企業で、NASDAQにも上場している有力企業である。NLBのアトランタ・ブレーブスを所有し、日本では住友商事と共にケーブルテレビのJ:COMを設立するなど、メディア展開とスポーツチーム運営の両方にノウハウを持つ。

F1はもともと欧州の貴族の遊びから始まっており、それまで各国でバラバラに開催されていたその国での一番の自動車競争(グランプリ)をシリーズ化し、世界的なスポーツとなった経緯を持つ。先述の通り利害関係が複雑であり、何度も分裂・消滅の危機を乗り越えてきた。

貴族の遊びという性格から判る通り、比較的保守的で排他的な雰囲気が長く続き、70年代初頭に初めてスポンサーカラーを身にまとった車に対しては「ヒモ付き」と揶揄されることもあった。ファンサービスも他のプロスポーツに比べると必ずしも良かった訳では無く、強いチームやドライバーばかりが勝つというマンネリ化もあいまって、人気は低下の一途をたどっていた。

しかしリバティ・メディアが経営権を握って本格的に始動した今年は、アメリカのプロスポーツにあるようなファンサービスがテレビ中継からでも顕著に確認できるようになり、古くからのF1ファンを驚かせている。

スペインGPでは、フェラーリのキミ・ライコネンのファンとおぼしき少年が、スタート直後にリタイアしたライコネンを見て号泣する姿がテレビ画面に捉えられた。その後その少年はフェラーリのピットに招待され、ライコネン当人からサイン入りの帽子を貰ってニコニコしながらツーショットで記念撮影するシーンがテレビに捉えられた。以前の排他的なF1では、考えられなかった光景に、世界中のファンが驚嘆した。

その他にも、サーキットの観客に良く見える形でのドライバー記者会見や、二人乗りのF1マシンに体験搭乗する企画など、アメリカのショウアップされたスポーツに近づこうとする動きが顕著に見られる。

自動車レースが曲がり角、その中で求められる対応とは

自動車のレースそのものが環境破壊などの槍玉にあげられるなど、ビジネスとしては前途多難な部分もある(反面、自動車レースの環境負荷は決して高くないという指摘もある)。スポンサーがあってこその自動車レースで、ファンはそのスポンサーの商品を買うことでレースを支えるという事を考えれば、誰もが親しみを持てるような運営は必要不可欠と言えるだろう。(信濃兼好、メガリスITアライアンス ITコンサルタント)