仕事や勉強、スポーツ、料理、習い事、人間関係などなど。世の中は、何事もデキる人とデキない人に分けられる。さらに、後者については、努力すればデキる人と、努力してもデキない人がいるという。

これは筆者が、会社を辞めてこれからどうしようかと悩んでいた20代後半の頃に、ある人からいわれた言葉だ。続けて、その人から「黒田さんは、仕事がデキル人なんだから、働かないとイケないんだよ」とも言われ、そんなものかと妙に納得して、バリバリと馬車馬のように働くようになったまま、現在に至っている。

筆者の仕事上のスキルはさておき、お金についても同じことが言える。デキる人とデキない人、つまり「貯まる人」と「貯まらない人」がいて、なかでも、節約(努力)しているハズなのに、ほとんど貯まらないという残念な人もいる。

さて、この差はいったい何なのか?

貯まる人の「お金に対する意識」の高さ

貯める,節約貧乏
(写真=PIXTA)

これまで20年近くFPとして、数多の家計を拝見して痛感するのは、お金が貯まる人と貯まらない人の最大の違いは、「収入」ではなく、「お金に対する意識の高さ」にあるという点だ。

そもそも、きちんと貯蓄できている人は、「なぜ、お金を貯めるのか?」という目的が明確である。

「海外留学のために2年間で100万円」とか「マイホームの頭金として5年間で800万円」といったようにゴールがはっきりしている。だから、こまめに節約したり家計簿をつけたりすることも厭わない。自分に合ったお金の使い方や貯蓄法を工夫するなど、お金に対して前向きな人が多いのだ。

要するに、漠然と「貯めなきゃ……」と思っているだけではお金は貯まってくれない。

意識すべきは「家計簿の細い数字」ではなく「長期的な視野」

今年4月に発表された、埼玉県労働組合連合会と有識者による「最低生計費調査」(2016年1~3月)が 、ネット上などで話題になった。埼玉県内に住む30代~50代が、「人並み」の生活を送るために必要な支出が示されたのだが、これが驚きの金額なのである。

たとえば、「30代夫婦で夫は正社員、妻はパート勤務、子どもは小学生と幼稚園児。クルマはなし」の30代のモデルケースの4人暮らし(さいたま市郊外の賃貸住宅(2LDK))の場合、1ヵ月あたりの住居費5万7292円、食費10万8192円、交通・通信が3万8210円、教育費2万6986円、教養娯楽4万5663円で、その合計は43万257円となる。必要な支出の総計は、40代になると45万3984円にアップし、50代になって、子どもが大学に入ると支出は急増。なんと58万4654円にものぼるという。

いずれも、人並みの生活を送るための最低ラインにも関わらず、その額が割高なのだ。

埼玉県で暮らしていて、本当にこれくらい生活費がかかるのかという検証はさておき、実際、普通に家族が暮らしていくだけで、結構、生活費がかかるというのは本当だ。

総務省「家計調査」のデータによると、2016年の勤労者世帯のうち2人以上の世帯の消費支出は1ヵ月平均30万9591円で、年間に換算すると約372万円となっている。

前述の埼玉県ほどではないし、消費支出は地域差も大きい。ただ、ご相談を受けていると、首都圏にお住まいの4人家族の場合、普通に生活するだけで、400~500万円くらいはかかっているケースがザラだ。そして、みなさん、「とくに贅沢しているわけでもないのに……」と口を揃える。

つまり、よっぽど気を引き締めて貯蓄に励まないと、貯められるものではないのだ。また、「とにかく節約!」とがむしゃらに無理している人も長続きしなかったり、反動で衝動買いしてしまったりと、効果はそれほど高くはない。

家計簿をつけているのにお金が貯まらないという人もいるが、家計簿はあくまでも予算管理簿という位置づけ。支出の特徴やお金の流れをつかむためのものであり、その後の「見直し」の方が大事なのである(ただ、家計がザル状態だった人は、家計簿をつけるだけでも効果が出る。レコーディング・ダイエットと同じ原理である)。

とにかく、家計簿で細かい数字に追われるのではなく、年単位の収支に注目して長期的な視野を持つことが重要なのだ。

お金が貯まらない人ほど「貯蓄グセ」がない

それでは、どうしたら「デキる人=貯まる人」になれるのだろうか? その第一歩としては、とにかく「貯蓄グセ」をつけることがポイントだ。お金が貯まらない人は、とかくまとまったお金ができたら貯蓄しようと考えがちである。「貯蓄グセ」がついている人ほど、1000円でも余ったらコツコツと貯蓄に励んでいる。

貯蓄の基本は、「収入」-「貯蓄額」=「支出」というように、最初から貯蓄に回すお金を差し引いて、残ったお金でヤリクリするのが大原則である。節約できておカネが浮くのを待っていては、いつまでたっても貯蓄はできない。そのためには、給与天引きや口座引き落としを活用して、スムーズかつ強制的に貯蓄できるシステム作りが大切である。

最近では、どの金融機関でも、給与振込口座や公共料金、積立定期など、口座に取引をまとめれば、ポイントが貯まるしくみを導入している。

給与振込口座などに取引を集中させておけば、いつでもATMによる出入金の手数料が無料になったり、定期預金や住宅ローンなどの金利が優遇されたりする特典が受けられる。その上、家計簿を付けなくても通帳で管理ができて一石二鳥かもしれない。ただし、預け入れ先の金融機関の安全性や利便性には注意しよう。

「貯まる人」と「貯まらない人」の差は、20~30代ではそれほど感じないかもしれない。しかし、40~50代になると、目立ち始め、60代の定年退職を迎える頃には、はっきりとした「勝ち組」と「負け組」に分けられる。

それを回避するためには、気づいたその日から始めるのが吉だ。
さて、あなたはどう行動する?

黒田尚子
黒田尚子FPオフィス代表
CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。立命館大学卒業後、日本総合研究所に入社。1996年FP資格取得後、同社を退社し、1998年FPとして独立。新聞・雑誌・サイト等の執筆、講演、個人向けコンサルティング等を幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、「がんとお金の本」(Bkc)を上梓。自らの体験から、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)など。