キャッシュリッチ企業への注目が高まっています。「キャッシュリッチ」とは現金や預金などの流動性の高い資産(キャッシュ)を潤沢(リッチ)に保有している状態のことです。たとえ損益計算書上で利益が出ていたとしても売掛金の回収ができなければ資金がショートし、黒字倒産してしまいます。一般家庭の家計と同じで企業活動も現金がなければ、立ち行かなくなってしまうのです。

世界経済が混迷を極める中、キャッシュリッチ企業に何が求められているのでしょうか。

ネットキャッシュが多いほど財務的に健全

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(写真=Number1411/Shutterstock.com)

手元資金の潤沢さを表す指標の一つが「ネットキャッシュ」です。現預金と短期保有の有価証券を足し、そこから有利子負債を差し引いて算出し、多いほど企業の財務健全性が高いとみなします。

ネットキャッシュが多いと、資金が必要となったときに調達に苦労しないわけですから、経営の自由度は高い状態といえます。一方で、ネットキャッシュが十分にあるにも関わらず、株価が低迷しているなど成長への足掛かりが見えない場合は、株主から「有効に活用してほしい」という圧力がかかる場合もあります。

ネットキャッシュは、生産設備や土地・建物が少ない企業ほど、割合は高くなりがちです。よって業種による差が発生し、一概に比較できるものではないことも念頭に置いておきましょう。

株価上昇・増配の期待が高まるキャッシュリッチ銘柄

ネットキャッシュの有効活用方法としては、設備投資やM&Aなどもありますが、差し迫った必要がない場合は現実的ではありません。よって株主に直接的に還元されるような使い道が優先されます。

代表的な使われ方のひとつが「自社株買い」です。企業が自社の株式を買うことによって、市場に出回っている株式が減るため、需給関係から株価は上がりやすくなります。また、買い上げた株式が発行済株式総数から差し引かれることにより、一株当たりの純利益(EPS)は増加します。結果として市場からの評価は高まり、多くの場合、株価は上昇します。

また、増配という形で株主にダイレクトに還元している企業も少なくありません。キャッシュリッチ企業を「増配を見込める銘柄」として注目している投資家は多いようです。

投資信託でもキャッシュリッチ企業の存在感が増しているようです。格付け会社・R&I が発表した「R&Iファンド大賞2016」の10周年特別表彰で、対象が最も多い国内株式カテゴリの最優秀ファンドに選出されたのが「日興キャッシュリッチ・ファンド」でした。10年という長期間にわたり安定的な運用が実現されたことが評価されての受賞です。ファンドそのものはもちろん、組み入れられている銘柄も投資対象としてチェックしておくといいでしょう。

内部留保課税が二年連続で争点に

市場評価が高いキャッシュリッチ企業ですが、2016年秋には政治的にも注目を集めることになりました。麻生太郎副総理兼財務大臣が講演で企業の内部留保が増え続けている現状を批判したことが発端となり、内部留保への課税が議論に上ったのです。

これは2015年にも同様に議論になったテーマで、2016年に再燃した格好です。内部留保課税は韓国や台湾が導入済みですが、日本では現実的ではないという見方が大半です。というのも内部留保課税は、法人税を払ったあとに残った利益に二重に課税することになるため道義的に不適切だとの考えがあるからです。

ただし、2年連続で話題になったことでキャッシュリッチ企業に政治的なプレッシャーが高まっているのも事実です。今後は、自社株買いや増配、M&Aなどに資金を振り向ける動きがより活発化してくる可能性があります。キャッシュリッチ銘柄をめぐる動きに今後も要注意です。(提供: IFAオンライン

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