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日本はデフレ経済となってもう20年近く立ってしまいますが、バブル崩壊までは物価上昇率の高い国として有名でした。インフレ傾向の国は政策金利を高めに誘導して物価の上昇を抑制します。日本では1970年代には9%と言う高い政策金利(公定歩合)が設定されていた時期があり、銀行の預金金利も4%近くありました。持っていた土地の値段はぐんぐん上がり、私の身の回りでも今住んでいる家が値上がりしたから売って新しい家を買うと言う人がいたりしました。今からは想像もつかない世界でしたが、当時の人にしてみれば現在の日本のデフレ経済も予想できなかったでしょう。現在のデフレ経済は資産デフレの逆資産効果で作られたと言っても過言ではありません。物価が下落し続ける事で所得も減り、日本経済は常に需要が足りなくなってしまい企業はその供給能力を削り落してきたのです。物価が上昇すれば今日はこの資産デフレの逆資産効果にフォーカスして現在の日本経済を分析していきたいと思います。


含み益と含み損の不思議な心理的効果

人間は不思議な物で自分の資産、または持っている物の価値が上がると別にそれを今すぐ現金化するわけでもないのに気持ちにゆとりが出てついつい財布の紐が緩んでしまうと言う事がありますよね。また、逆に価値が目減りしてしまった時は手持ちの現金が無くなってしまったわけでもないのに節約したくなったりしますよね。日本が抜け出せないで困っているデフレ経済とは物価が継続的に下落していく状態を表します。この二十年間は物価が下がる、所得が減る、企業が設備投資を控えるというこのサイクルが延々と続いてきたのです。確かに自分の資産が目減りしてしまったのに消費を拡大させる人はいません。国民全体がその心理状態に陥ってしまいデフレその様にして日本経済は形成されてしまっているのです。

①  資産デフレとは

ここで資産デフレという言葉をご紹介したいと思います。この言葉が示す資産とは主に金融資産の事を指し、株式、不動産、債券等の事です。投資家は自分の資金を将来的に有望な金融資産に投資しています。物価が上昇相場の時は購入した金額よりも資産価値が上がり、見た目の保有資産が増える事で消費意欲につながるのですが、デフレの様に物価がどんどん下がって行ってしまう相場では資産は買われなくなってしまい全て貯蓄に回されてしまうのです。貯蓄は個人的に考えると増えれば増える程良い物だと考えてしまいますが、日本全体がその様になってしまうと経済の血液であるお金が全く回らなくなってしまいデフレになり個人の所得は減ってしまうのです。貯蓄はミクロ的にはいいのですがマクロ的に見ると必ずしも良い物ではないという事を例えて「合成の誤謬」と呼ばれたりしています。

②  逆資産効果のメカニズム

逆資産効果が発生してしまう局面として景気の後退時があげられます。みなさんがご存知の具体例としてアメリカの住宅バブル崩壊があります。様々な金融商品の中でアメリカでは2000年頃から上昇し始めた住宅価格はバブルとなり2007年にリーマンショック等の一連の金融危機を伴って崩壊しました。長期間にわたり上昇した住宅価格はバブルが崩壊するまでは投資家達に巨額の富をもたらし、旺盛な消費を掻き立てました。ここでいう投資家達と言うのは専門的な人ではなくアメリカで住宅を買った一般の消費者です。特にアメリカでは住宅価格が上昇するとそれを担保に新しい借金をして物を買うと言う様な事が習慣になっていました。住宅価格が上昇を続ければこの借金は自然に無くなってしまうという夢の様な話でした。バブルが崩壊して景気が後退し始めると今まで出来た事が出来なくなり、時間を逆戻しする様な現象が起きます。つまり上昇していた分でお金を借りたり物を消費したりしていた為、借金だけが取り残され緊縮財政を余儀なくされる事になるのです。社会全体がその様になると最終的にはデフレに陥ってしまうのです。

③   日本のバブル経済崩壊で起こった事

では日本のバブル崩壊ではどうだったのでしょうか、アメリカ住宅バブル以上に住宅価格は上昇しましたがアメリカ人の様にそれを担保にしてどんどん借金をしていった個人投資家は比較的少ないと言われています。その代わりに金融機関や企業はアメリカの住宅バブル崩壊同様に保有していた資産が目減りをしてキャッシュフローが悪化してしまいました。その様になってしまうと資産はある程度評価額が戻るまでいわゆる「塩漬け」にするしかなく、経済全体として見た時に誰もお金を借りない、誰も消費したいと思わない、誰も投資したいと思わないという全く活気がない経済となってしまったのです。幸いにも当時は世界経済が比較的好調だったので日本国内に外資が入ってきて企業を救済したりしてくれました。代表的な例は日産のゴーン社長の登場で、そのリーダーシップのもと合理化を進めたので現在の日産があるのです。しかし、このバブル崩壊を体験していたので日本の金融機関はリーマンショック時の金融危機では比較的健全な体質だったと言われています。


今後日本はインフレになるか

資産デフレを解消する為には物価が上昇するインフレ状態になる事が必要です。20年間デフレが続いた日本は現在2%のインフレターゲットが設定され大規模な金融緩和が行われていますが、財政出動だけではデフレを克服することはできません。お金ばかりを市場に供給した所でファンド等の投機筋が潤うだけで実体経済がしっかりとついてこなければ国民の所得増大、消費拡大にはつながりません。本気でインフレを目指すのであれば国としても従業員の賃金を上げる施策を立案するだけでなく、企業が増えた利益を賃金に還元しているかどうかチェックする機能が必要だと個人的には思います。現在の日本は少子高齢化が進んでいる為それほど旺盛な需要が望めませんのでどうやって消費を喚起するか今後の政府の施策に注目が集まっています。

photo credit: Rareclass via photopin cc