時代は変わっても「経済の掟」は変わらない。だからこそ経済理論を用いた歴史分析は現代おいても教訓が多い。著者は室町・戦国時代の貨幣量の変化に注目し、当時の政治経済と荒廃した日本を立て直した織田信長の功績について考察している。

『経済で読み解く織田信長 「貨幣量」の変化から宗教と戦争の関係を考察する』
著者:上念 司
出版社:ベストセラーズ
発売日:2017年2月25日

(画像=Webサイトより)
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江戸時代まで独自通貨を持たず金融政策を他国に依存

和同開珎といった独自の貨幣は存在したが全国的には流通せず、実際に貨幣として使用されたのは中国(原文では「支那」と記載)大陸で流通していた銅銭であり、その銅銭を貿易により輸入していた。

これは、経済全体のモノとお金のバランスで経済が左右される「ワルラスの法則」で見た場合に、お金の量を増やす手段が貿易しかないことで量が不足し、デフレ経済になりやすいことを示唆する。著者が銅銭を基準として日本と中国の米価を比較すると、7倍近く日本の米価が低かったという試算結果も示している。

「ワルラスの法則」がいかに強力かは、室町幕府3代将軍義満が日明貿易を開始し大量のお金が供給され「北山文化」と呼ばれる繁栄の時代を迎えたものの、4代将軍義持が貿易を停止する大悪手で「失われた20年」を招いたことからもよく分かる。その後、政治経済を立て直すため6代将軍義教や細川政元などの奮闘があったものの、結果的には日本の歴史上最悪の時代となった。

織田信長の構造改革の手腕と金融政策の評価