民泊のルールを定めた民泊新法(住宅宿泊事業法)が国会で成立した。施設の貸主は都道府県に届ければ、年間180日を上限に民泊事業ができる内容で、政府は2018年1月の施行を目指す考え。

これまで大阪市など国家戦略特区に限定されていた合法民泊の市場が全国に拡大することになり、民泊仲介サイトからは歓迎の声が出ている。これに対し、地方自治体の中には上限日数の上乗せ規制や独自ルールを定めた条例制定を検討する動きがあるほか、民泊業者からは上限日数の規制が厳しすぎると反発する声も上がっている。

インターネット仲介サイトにも登録義務付け

民泊,新法
(写真=Brian A Jackson/ Shutterstock.com)

観光庁によると、新法は旅館業法の対象外となる民泊サービスについて、宿泊日数が年間180日を超えないものと規定した。営業日数が180日を超す場合は新法の対象外となり、旅館業法の営業許可が必要になる。

提供される家屋の建物用途は住宅、共同住宅、寄宿舎などとされた。台所や洗面設備のない事務所やガレージは認められない。民泊事業を営む事業者は提供する住宅の図面を添えて都道府県への届け出が必要だ。

新法は届け出をして事業を営む人を住宅宿泊事業者、実際に管理する人を住宅宿泊管理業者と規定した。管理業者は国土交通省への登録が求められる。住宅宿泊事業者が届け出した住宅に居住しながら事業するときは、住宅宿泊事業者兼管理業者になる。居住していない住宅を利用する場合は、他の管理業者に委託しなければならない。

管理業者には、避難経路の表示、宿泊者名簿の備え付け、近隣への迷惑がないよう外国人宿泊者に対する外国語での注意表示、苦情受付窓口の設置、民泊事業をしていることの表示などが義務づけられる。違反があれば登録取り消し、業務停止命令などの罰則が課せられる。

インターネットなどの仲介サイトは住宅宿泊仲介業者と規定され、観光庁への登録が必要。取引条件の説明や名義貸しの禁止などの義務があり、違反すれば罰則の対象となる。

年間180日の営業日数上限は周辺環境に配慮する必要があれば、自治体が条例で引き下げられる。しかし、具体的な基準は決まっておらず、施行までに政省令で定める。

仲介サイトは歓迎するが、業者からは不満の声

政府は2020年までに訪日客を現在の1.7倍の年間4000万人に増やす計画。都市部での宿泊施設不足解消の切り札として民泊に注目しているが、これまでは国家戦略特区を除けば旅館業法の許可を取らなければならなかった。

しかし、許可を得るハードルが高かったため、東京都や大阪市を中心に無許可の違法民泊が続出、近隣住民とのトラブルが相次いでいる。このため、旅館業法より規制の緩い宿泊形態として民泊を追認して訪日客を取り込むと同時に、登録や届け出を求めることでトラブル解消を狙ったわけだ。

新法に対し、仲介サイトの多くが歓迎の意向を示している。世界最大手のAirbnb日本法人の田邊泰之社長は「シンプルで現実的な法律が成立した。観光業の拡大や空き家活用の推進にもつながる。今後、民泊の普及に向け、政府や自治体と協働していきたい」とのコメントを発表した。

国内大手の百戦錬磨は「日本では違法民泊の撲滅と公認民泊市場の形成が急務となっていた。これで利用者だけでなく、近隣住民とも共存できる民泊の普及が進むのでないか」としている。

しかし、民泊を進める業者の中には、180日の営業日数上限に不満の声がある。大阪市中央区や京都市東山区など観光地近くで営業する民泊業者の多くは、高品質と低価格を売りにして訪日外国人客を集めている。採算を合わすのには稼働率を上げなければならず、営業日数の制限が死活問題になるからだ。

新経済連盟の調査では、民泊を営むホストのうちホスト不在型の9割、在室型の7割が180日の日数制限で「赤字になる」と答えている。大阪府のマンションで民泊を営む男性は「自治体に上乗せ規制されると、登録を見合わせて違法民泊を続けるところが相次ぎそうだ」と語った。

自治体は独自の上乗せ規制を模索

民泊に否定的な自治体は条例による営業日数上限の上乗せ規制の検討を始めている。門川大作京都市長は住居専用地域のマンションなど集合住宅での民泊を基本的に認めず、独自に条例で規制する意向を明らかにした。

京都市は2020年までに少なくとも6000室が不足するとみている。5月からは上質宿泊施設誘致制度をスタートさせ、宿泊施設の誘致にも本腰を入れている。京都市医務衛生課は「条例では京都らしい民泊のあり方を考えたい」と述べた。

東京都新宿区も2016年から有識者会議で民泊のあり方を検討しており、条例制定による規制強化を視野に入れている。札幌市は違法民泊取り締まりを強化するため、2月から市民からの通報窓口を設けた。

長野県軽井沢町は町内での民泊を一切認めない方針。軽井沢町環境課は「新法が施行されても町の方針を説明し、営業できないことを理解してもらう」と強硬姿勢を崩さない。上乗せ規制が行き過ぎると、訪日客増加を見込んだ規制緩和が骨抜きになる可能性もある。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の 記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。