米スーパー業界は、戦乱の世に突入した。インターネット通販の巨人、米アマゾン・ドット・コムが6月16日、米オーガニック食品スーパーチェーンのホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5000億円)で買収すると発表したことで、業界全体を巻き込んだ価格競争による消耗戦が本格的に始まったのだ。
この戦争でアマゾンは、売り上げの6割を食品が占める安売り王ウォルマート、オーガニックを含む生鮮食品の取り扱いを強化する大型会員制の倉庫店コストコ、高級オーガニック分野参入でホールフーズを積極的に攻めてきた全米最大のスーパーマーケットチェーのクローガーなどが、過激なコスト削減のノウハウを持つアマゾン・ホールフーズの低価格攻勢に対して守勢に回ることが予想される。
ホールフーズは、これらスーパーの高級オーガニック市場参入による競争の激化と高級食材の低価格化の二重苦によって、過去3年の間に成長が鈍化しており、「物言う投資家」から身売りを迫られていたのだが、アマゾンによる買収は攻守逆転のどんでん返しだったわけだ。
ホールフーズのライバル小売り大手の株価は、「アマゾン・ショック」で下落を続けている。6月23日現在、コストコは買収発表以前から12.7%下げ、クローガーも8%下げている。
買収発表以前から価格競争
だが意外なことに、生鮮食料品価格の下落はスーパーの競争が厳しい中西部を中心に、それ以前から進行していた。今回の買収は、その傾向に拍車をかける役割があると、専門家は見ている。
オハイオ州シンシナティ市のクローガーを例にとると、1ガロン(約3.8リットル)の牛乳が99セント(約110円)と激安だ。同市のウォルマートでは、同等商品が98セントとさらに安く、ドイツから進出したディスカウントストアのアルディに至っては97セントである。卵1ダースはクローガーが一番安く39セント(約44円)、アルディが43セント、ウォルマートが44セントだ。
こうした環境に、コスト削減に強いアマゾンに買収されたホールフーズが低価格路線と生鮮食品宅配の組み合わせで殴り込みをかければ、競合する生鮮スーパーの一部は耐え切れなくなって落伍する恐れがある。
米CNNが、「アマゾンはショッピングモールを潰しただけでなく、今度は生鮮スーパーまで潰す」と評する所以である。さらに、手持ちキャッシュのおよそ半分を費やしてホールフーズを取得するアマゾンは、米国主要都市を中心に海外を含め460以上の店舗に商品を配送する食品物流施設と生鮮流通のノウハウを手に入れるため、競合は戦々恐々だ。
米証券会社スタイフェル・ファイナンシャルの子会社、スタイフェル・ニコラウスのアナリストであるマーク・アストラチャン氏は投資家向け分析で、「株価の面からみると、アマゾンのホールフーズ買収が短期的に競合に与える影響は限定的だが、長期的に価格競争が激化して、生鮮スーパー業界の株価の伸びは限定的となる」と予測する。