インターネット通販の巨人、米アマゾン・ドット・コムは6月に入って、通販や生鮮食品で自社を追い上げる最大のライバル、安売り王ウォルマートに対し、痛烈な反撃打を2発放った。

ひとつは、米オーガニック食品スーパーチェーンのホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5000億円)で買収し、アマゾンの徹底したコスト削減手法を生鮮スーパー市場に持ち込むことで、食品が全体の売り上げの60%を占めるウォルマートから低所得者層の客を奪おうとする戦略。

そしてもうひとつが、生活困窮者の食料購入補助目的で支給される通名「フードスタンプ」のEBTカードの所有者を対象とした戦略だ。具体的には、商品配送料無料のプライムサービスの会費を、約半分の月額5.99ドル(約660円)に引き下げる。
これは、2016年度の年間連邦予算が700億ドル(約7兆8000億円)に上る収益性が高いフードスタンプ市場の18%、130億ドル(約1兆5000億円)を支配するウォルマートに真っ向から勝負を挑む行為だ。

貧困者市場が利潤性の高いマーケットであることを最初に証明したのは、低所得者層を主なターゲットに定めたウォルマートであり、その牙城にアマゾンがどこまで食い込めるかが注目されている。

アマゾンの戦略の有望性

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(写真=Yeamake / Shutterstock.com)

アマゾンが低所得者層に狙いを定めたのは、今回が最初ではない。4月には、信用が低いためクレジットカードやデビットカードを持てない層に向けて、「アマゾンキャッシュ」という、アマゾンでの買い物にのみ使えるデビットカードの発行を始めた。米国の全世帯のうち7%は金融機関との取引がないため、これらの層がオンラインでアマゾンから商品を発注できるようになれば、プライム会費半額と相まって、顧客をウォルマートから奪えるチャンスが増大する。

貧困層はクルマを所有していない世帯が多い「買い物弱者」が多い。アマゾンのプライムサービスの配送料無料は、一部地域では発注から2時間以内に生鮮食品・清掃用具・おむつ・玩具などが届く。そうした人々は友人の車を借りる礼金やタクシー代を節約できることになり、福音になる可能性がある。トム・ビルサック前米農務長官は昨年、「買い物の交通手段を持たない人々にとって、オンライン通販は大きな救いとなる」と述べている。

さらに、アマゾンが打ち出した一連の貧困層向けプログラムは、対象者の栄養問題の解決の一助になる可能性を秘めている。地元の食品店で不健康だが安価な商品しか入手できない世帯は、子供も大人も肥満に悩んでいることが多い。ホールフーズを買収して質の良い生鮮食品を安価に提供できるようになったアマゾンが、そうした健康的で質の高い食品を無料で宅配するようになれば、多くの世帯の健康問題解決に寄与できるかもしれない。

現実面の制約