日本が高度経済成長期にあった1970年代から80年代、空前のオーディオブームがあった。「レコード鑑賞」は高尚な趣味として扱われ、世界中で多くの人が高級オーディオ機器を買い求めた。そんなオーディオブームの生き残りとも呼べる企業がオンキヨー <6628> だ。

注目されるのは、オンキヨーの株価が6月下旬に2日連続のストップ高を付けたことである。今回はオーディオブームの歴史を振り返りながら、オンキヨーの株価上昇の背景に迫ってみよう。

1970年代から80年代の「オーディオブーム」

スマホはおろか、パソコンもテレビゲームもなかった時代、音楽は生活に広く密着した、かけがえのない娯楽だった。レコードやFM放送でエアチェックした高音質の音楽を「自分好みの音」で楽しむために、高額のオーディオ機器を買い求める……オーディオブームが発生したのは、そんな時代である。

当時、レコードプレーヤーやアンプ、チューナー、スピーカーなどで構成する「オーディオセット」は、リビングルームやオーディオルームの主役だった。本屋には、オーディオやFM関係の雑誌が並び、それらを立ち読みするだけでもワクワクしたものである。オーディオメーカーにとって、1970年代から80年代は文字通り「黄金の時代」だったといえるだろう。

日本のオーディオメーカーは、世界でも最先端の技術を有し、マニアのニーズに応えていた。当時「オーディオ御三家」と呼ばれていた上場企業が、アンプの山水電気、チューナーのトリオ、スピーカーのパイオニア <6773> だった。このほか、オープンリールのAKAIとティアック <6803> 、カセットデッキのナカミチ、プレーヤーのDENONなど世界的なオーディオ機器メーカーがたくさんあった。冒頭で紹介したオンキヨーもアンプとスピーカーの人気メーカーの一つだった。

そんなオーディオブームも、ウォークマンやCDプレーヤーの登場により、次第に衰退の道を歩むこととなる。CDが普及する中でレコードの需要も急速に縮小し、やがてMP3などのデジタル音源の時代を迎えるのである。

衰退期を生き延びた「オーディオ業界のマンモス」

オーディオメーカー各社の「その後」も様々だ。御三家の山水電気は2012年に経営破綻して上場廃止、トリオは1986年に社名をケンウッドに変更、2008年には日本ビクターと合併しJVCケンウッド <6632> となった。パイオニアはAV機器から撤退、AV部門はオンキヨーに引き継がれることとなる。

オンキヨーも苦難の道を歩んできた。2006年3月期に最終赤字に転じ、その後2017年3月期までの12期で8期もの最終赤字を計上している。今期は最終益の黒字化を予想しているが、決して素晴らしい業績とは言えない。それでも、衰退期を生き延びてきた「オーディオ業界のマンモス」とも呼べる存在だ。

そんなオンキヨーの株価に「変化」が見られたのは先月下旬のこと。6月21日、22日の2日連続でストップ高を付けたのだ。さらに26日には324円の高値を記録、たった4日で2.3倍の急騰を演じたのである。

スピーカーの「新潮流」が私たちの生活を変える?

オンキヨーの株価が上昇したきっかけは、Appleの音声認識技術「Siri」に対応したスピーカーをアップルストアで発売したとの情報である。ライトニング・コネクターでiPhone、iPadなどに接続し、音声認識に対応可能な会議用スピーカーとして売り出すというものだ。

オンキヨーの株価は今年2月にも上昇したことがある。米国を中心に普及しつつあるAmazonの音声認識技術「Alexa(アレクサ)」対応のスピーカーに参入するとの一部報道に反応したものだ。

音声認識技術はスマートホームの普及を後押しし、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めている。オンキヨーはスピーカーを中心とした「AI家電」の開発に注力し、2020年度までにこの分野の売上目標を400億円に想定、新しい成長のドライバーにしたい考えだ。

これからの時代、音声認識を有するスピーカーは、私たちの生活をより便利にするキーデバイスとして、広く浸透することが期待されている。

日米英で蘇るレコードブーム?

音声認識技術という「新潮流」もさることながら、世界的にレコードを見直す動きが広がっている点も注目される。

BBCによると、英国では2016年のレコード販売が前年比53%増の320万枚となり、1991年以来25年ぶりの300万枚超えとなった。米国でも2016年のレコード売上が前年比10%増の1310万枚に達したとビルボード誌が伝えている。そして、日本でもレコード販売が前年比21%増の80万枚と3年連続で増加している(※日本レコード協会の調べによる)。こうした日米英の動きは「レコードブーム再来」の兆候なのだろうか? まだまだ低水準ではあるが、世界的にレコードを見直す動きが広がっているのは、筆者としても嬉しい限りだ。

オーディオ黄金期を経て、衰退期を生き延びた「オーディオ業界のマンモス」の健闘を祈りたい。(ZUU online 編集部)