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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、外国為替を見る上で重要な概念である「国際金融のトリレンマ」の説明をします。まず、トリレンマを構成する3つの金融政策をそれぞれ説明し、それが何故トリレンマの状態になるかを説明します。最後に、事例としてリーマンショックで欧州への影響が大きかった理由を取り上げます。


3つの金融政策

国際金融のトリレンマとは、簡単に言えば、①為替相場の安定、②独立した金融政策、③自由な資本移動のうち、2つまでしか併存させられず、3つ目を行おうとする場合はどれか1つを諦めなければならない状態になる事を言います。trilemma は、「三者択一」の状態を意味します。 では、それぞれの意味を説明していきましょう。


為替相場の安定

為替相場を安定させる事は、小国であり経済が不安定である国にとっては特に有効ですし、また、小国でなくとも他国の通貨が不安定である時に為替相場を安定させる上で有効になります。

為替相場を安定させる方法には、主に①固定相場制と②共通通貨があります。

固定相場制については、金1オンスを35ドルに交換可能な状態にしていたブレトン・ウッズ体制(日本の場合は1ドル=360円に固定)などがあります。ブレトン・ウッズは1973年のニクソン・ショックを機に多くの先進国が変動相場制に移行していきました。 後者の共通通貨の代表的なものがユーロですが、これもブレトン・ウッズ体制下でのポンド危機やフラン危機など欧州通貨相場が混乱状態になる事が増え、国際取引に弊害が出ていた事が共通通貨導入への当初の目的でした。共通通貨は域内の取引を安定させるメリットは有ります。デメリットについては後で取り上げる事にしましょう。


独立した金融政策

独立した金融政策における「独立」とは、一国若しくは一国の中央銀行を指し、それらが独立して金融政策を行えるかどうかというのがポイントです。金融政策の目標には、主に物価や通貨価値の安定があり、その手法には買いオペレーションや売りオペレーションといった公開市場操作や、預金準備率があります。 最近の日本は、インフレターゲットを導入し、積極的な金融緩和を行う事でデフレから脱却しようとしています。


自由な資本移動

自由な資本移動は、外国からの直接投資を制限しているか否かや、対外資本取引が自由か否かで判断するものです。資本移動の制限は、国内の雇用を保護する目的などで行われ、日本も戦後は外国資本の出資比率が50%以下に制限されていました。その後、IMF8条国への移行などに伴い、資本自由化が進められていき、現在は一部の外資規制(国家の主権維持などに関係する防衛や放送、通信など)を除いて、自由な資本移動が行われています。 また、ユーロ参加国内でも自由な資本移動が活発に行われています。


3つの金融政策を併用出来ない理由

ここまでの説明で、3つの金融政策を併存出来ない理由に気づかれた方もいらっしゃると思いますが、順に説明していきましょう。

【「為替相場の安定」と「独立した金融政策」を選択した場合】

まず、為替相場の安定と独立した金融政策を選択した場合ですが、この場合に資本移動を規制していないと、資本流入出が起こりえます。中国を例に説明してみましょう。

中国は管理フロート制(通貨の変動幅を固定した中での通貨取引が行われる制度)は為替相場の安定政策の一種で、更に独立した金融政策を行っています。仮に中国の経済に悪影響をもたらすほどの高いインフレ傾向になったとしましょう。この時、中国は金利を上げる等の方法で独立した金融政策を行使するでしょう。しかし、もし資本移動が完全に自由であったら、海外との金利差を求めて人民元が多く買われるでしょう。そうなると、人民元は大幅に高騰して為替相場の安定を放棄するか、金利調整などの独立した金融政策が無効になってしまいます。

【「独立した金融政策」と「自由な資本移動」を選択した場合】

独立した金融政策と自由な資本移動が選択されている国は、日本やアメリカ、英国などの例が分り易いでしょう。仮に金融緩和をして金利を低下させると、自由な資本移動が可能な場合はその通貨が売られるので、固定相場制(為替相場の安定)を選択する事は出来なくなります。

【「自由な資本移動」と「為替相場の安定」を選択した場合】

自由な資本移動と為替相場の安定を選択している場合に、基軸通貨国と異なる独立した金融政策を取ろうとしましょう。仮に金融引締めによって金利を上昇させると、固定相場制下では、無リスクで金利差による利益を得られるので、金融政策が無効化しています。


リーマンショックで欧州への影響が大きかった理由

ユーロ加盟国が、リーマンショック以後の悪影響が大きかったのは有名ですが、その理由は何でしょうか。ユーロ加盟国は、前述の通りユーロによる「為替相場の安定」と域内の「自由な資本移動」を選択しています。

リーマンショック以後、ユーロ加盟国も全体的に財政に悪影響を被ったわけですが、他の国と比べて回復が遅くなったのは、「独立した金融政策」を行使出来ないからです。例えば、ギリシャやスペインのソブリン危機が記憶に新しいですが、何故あそこまで深刻な状況になったのでしょうか。

変動相場制下なら経済危機による通貨信用の低下による通貨安により、発展途上国がそうであるように輸出業などからメリットを享受して経済成長をする事が出来るのですが、ギリシャやスペインはユーロ加盟国であった為に独立した金融政策を取る事が出来ず、トータルで見て「通貨が割高である状態」が続いたからです。つまり、ユーロ加盟国の中でも相対的に経済力が強いドイツなどと、相対的に経済力が弱いギリシャなどが同じ通貨を利用しているが故、前者は過小評価、後者は過大評価になってしまうのです。

勿論、ソブリン危機によってユーロ相場は下落したわけですが、それでも異なる経済力を持った国が共通通貨を利用している以上、割高の状態は無くならないので、深刻な影響が出ているわけです。

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