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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

2009年終わり頃にギリシャから始まった欧州ソブリン危機がユーロの信認を大きく揺るがした事は記憶に新しいですが、ソブリン危機とそれへの対応(資金注入等)が注目される余り、ユーロレートの変化とその背景はあまり報道されていなかったように思われます。

本稿では、欧州ソブリン危機にあったユーロ周縁国の債務問題は、為替レートの変化においてはきっかけに過ぎず、全く異なる経済力を持つ国が共通通貨を利用している事で、周縁国にとってはユーロが割高であり、更に投資家がユーロを過信していたが故、ソブリン危機の影響が大きかった事を示します。また、共通通貨であるが故に、相場調整による経済回復があまり見込めない事についても言及します。


欧州ソブリン危機とは

ギリシャの国債(ソブリン)問題を皮切りに、スペインやアイルランド等欧州に経済危機が波及していった事例を一般的に「欧州ソブリン危機」と呼びます。直接的な原因は、ギリシャによる国家財政の粉飾決算が明らかになった事がきっかけですが、周縁国の債務問題は、リーマンショック以後急速に拡大していました。


周縁国の債務問題

下図は、欧州各国の債務残高の対GDP比の推移を示しています。ギリシャはリーマンショック以前から債務比率が上昇していました(粉飾決算により隠していました)が、スペインとアイルランドはリーマンショック以後に急速に債務比率が悪化している事が分かります。ギリシャも、リーマンショック以後に債務比率の上昇率が高まっている(傾斜が急になっている)事が分かるでしょう。一方で、ユーロ圏の中で最も経済力が高いドイツの債務比率は安定しています。

欧州各国の政府債務比率の推移

図:欧州各国の政府債務比率の推移

出典: 世界経済のネタ帳

元々は、ユーロ加盟国は、財政赤字や債務残高について基準(債務残高は名目GDP比60%、財政赤字は名目GDP比3%)があり、それを満たせない場合は是正勧告が行われるという決まりになっていました。しかし、ドイツが2005年に財政赤字が基準値を上回った時に、「急激に景気が後退した場合には、例外的に短期的に財政赤字が許容される」という規定が出来ました。

そして、その後も欧州全体の財政問題が深刻になっていく中で、この基準値を満たせない国(ギリシャ、スペイン、アイルランド等)が増えるわけですが、リーマンショック後の世界金融危機という事で、「短期的な例外」という規定も実効性を失っていく事になります。 こうして債務問題が根本的に解決されないまま先送りになっていった事は、その後のソブリン危機の弊害を大きくする事になります。


周縁国にとってユーロは割高

日本などの例を見ても分かるように、債務比率が一定以上になると国債が暴落するというわけではなく、ソブリンリスクが投資家に意識された時にリスクが顕在化すると考えるのが妥当です。実際、ギリシャやアイルランドのソブリン危機が深刻な問題になったのは、債務比率の高さよりかは、急激に債務比率が悪化したというその変化にあると言えます。これは、行動経済学の実証実験でも多数の報告があるように、人は変化に敏感な反応を示す傾向がある事とも一致します。

しかし、一旦ソブリン危機が投資家に認識されると、そのユーロの割高感からユーロ売りが広がります。何故なら、想像以上にユーロ加盟国が債務問題を抱えていた事が投資家に意識され、そのリスクが為替相場に反映される事になるからです。また、周縁国の経済力はドイツなどに比べて相対的に弱いが故、ユーロ加盟国の経済力の加重平均を近似的に表わしていると考えられるユーロ相場は、周縁国にとっては割高であるのです。


投資家によるユーロの過信

また、ユーロの割高感は、投資家によるユーロへの過信がありました。例えば、EUは財政赤字国への救済は元々禁止されていましたが、ドイツなど経済に比較的余裕がある他国からの支援が結局は行われるという楽観視が多くの投資家に共有されていたので、以前から債務問題があっても、それでユーロ売りに流れるという事はありませんでした。 ソブリン危機によって大きくユーロ売りに繋がったのは、ソブリン危機だけでなく、ドイツ等が支援に消極的な姿勢を取った事が大きいと言われています。


輸出国家になれない債務危機国

前述した通りユーロは、経済力が相対的に強い国と弱い国が一緒に加盟しているので、経済力が強い国にとってはユーロが割安に、弱い国にとっては割高になります。通常、通貨が独立していれば、ギリシャなどのような状況になっても、通貨が大幅に下落し、それによって輸出産業を後押しする等のメリットがあり、景気の回復を後押しする要因になります。しかし、ギリシャ等はユーロという通貨に固定しているので、ユーロの信認が失墜したと言っても、ギリシャより経済力を持つ国がユーロに加盟している限り、割高である状態は変わりません。

また、最近は日米の活発な金融緩和により、ユーロ相場が回復しつつあるので、それはギリシャ等にとっては傷口に塩を塗る状態であるとも考えられるでしょう。 本来は、IMF等の支援は、ギリシャ等がユーロを脱退した上で行われる方が効果が高いと思われますが、現状では脱退の確率は低いという事で、アンバランスな為替相場が続くと思われます。(逆に言えば、脱退のムードが高まると、ユーロが買われる可能性が高いとも言えます。)

photo credit: rockcohen via photopin cc