お金は普通1つの国の中で1種類しか使われていませんが、ヨーロッパのユーロ導入国では複数の国がユーロという1つの統一通貨を使って生活しています。日本人の方が海外旅行に行く際に、日本円を他の国の通貨に交換しますが、ユーロ導入国内であれば同じ通貨が使える為その様な事はありません。この様に複数の国が統一通貨を使うという事は世界的な大実験でもありました。なぜならヨーロッパは長い歴史の中で、絶え間なく紛争が続いた地域でありEU(欧州連合)が生まれたのは第二次世界大戦の後でした。今回はこの様に複雑な歴史を持つユーロの特徴をご紹介していきたいと思います。
USドルに対抗できる唯一の通貨「ユーロ」
外国為替市場で取引される流通量でユーロは2位となっています。さすがに基軸通貨であるドルにはかなわないと言った所ですが、世界3大通貨であるドル・ユーロ・円の中でもドルに対抗できる通貨はユーロしかありません。
現在ユーロ導入国は来年度からの導入を正式決定しているリトアニアも含めると25カ国となり、それらの国同士での貿易取引は基軸通貨を介さずに決済可能となります。
ユーロとヨーロッパ各国の状況
ユーロはEU(欧州連合)に加盟している国全てが導入しているわけではありません。現在19カ国のEU加盟国と6カ国のEU非加盟国の計25カ国という国々でユーロが導入されています。ユーロを導入するということは、金融政策である政策金利や通貨供給量も共有する事を意味します。国土や人口、生活水準、経済規模などが異なる国同士が手をつなぎ統一通貨ユーロを作ったという事は歴史的な偉業だったのです。
ヨーロッパの経済状況は長引く不況でユーロ圏の失業率は12%程度と高止まりしたままです。中でも深刻なのが失業率30%に迫るギリシャ、スペインでヨーロッパの火薬庫とも呼ばれています。主に南欧の国々の経済状況が思わしくなく、ドイツの様な経済的に強い国が他のユーロ加盟国を支えている様な状態です。
金融危機とユーロの運命
米国のサブプライムローンを発端とした世界金融危機は、やがてヨーロッパにも飛び火しました。ギリシャが深刻な財政赤字である事が表面化すると、国債を通じて調達した資金が債務不履行(デフォルト)になる可能性が高まり、ギリシャ国債価格が暴落したのです。欧州の金融機関はギリシャ国債を大量に保有していた為、巨額の損失を被った多くの銀行等が破たんしました。ギリシャは国民選挙によりユーロ離脱を回避して緊縮財政の道を選ぶ事になり、ドイツを中心とした他の国々からの融資を受ける事ができました。
しかし、今後その緊縮財政によりギリシャが復活できるかどうかは大きな疑問が残る所です。これを皮切りに財政問題が次々と表面化し非常に状況の悪い国をまとめてピッグス「PIIGS」(ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン)という言葉まで出来てしまいました。通常1つの国家であれ、米国のように緊急利下げなどの金融政策により市場に安心感を与えたり出来るのですが、統一通貨である為にその様なオペレーションがすぐには出来なかったのです。金融危機前まで順調に推移してきたユーロの脆弱性が一気に露呈した形となりました。
欧州中央銀行とユーロ
統一通貨ユーロを発行・管理している欧州中央銀行(ECB)はドイツのフランクフルトにあります。欧州中央銀行の役割は他の中央銀行と同じで通貨ユーロの安定と物価の安定、インフレの抑制などです。ユーロに関する基本的な政策は欧州中央銀行により決定され、その方針に基づきユーロ圏各国の中央銀行が実行するという一連の流れをユーロシステムと呼んでいます。
他の中央銀行と異なる点は統一通貨の為、すべての導入国の経済状況を考慮した上で、金融政策を決めていかなければならない点です。欧州中央銀行には高い独立性が求められており、ある一国の政府が自国の景気を改善させる為の要求をしたとしても、それに応じる事はないのです。
欧州中央銀行はギリシャ危機を発端とした債務問題を解決する為に新たなミッションを背負う事になりました。それはユーロ導入国すべての金融機関を監視する役割です。これまで各国政府に任せてきた金融機関のチェックを欧州中央銀行が統括して管理していく事になったのです。第二のギリシャを作らない為にも金融機関のチェックが甘くならない様なシステムが運用される事になったのです。
ユーロの未来
ユーロを導入して良かったのかどうかは色々な面からみて賛否両論あるかと思います。ギリシャはユーロに残る事を決めましたが、ユーロを離脱して過去に使っていたドラクマを復活させ、自国通貨を切り下げると言う金融政策を取る方が良かったと言う人もいるかもしれません。
世界金融危機の際には各国が大規模な金融緩和政策により自国通貨の流動性を増大させるといういわばカンフル剤の様な手段を用いました。ユーロ導入国には個別にその様な対応が取れませんので、これからは深刻な事態に陥らない様な監視システムをしっかりと運用していく事が求められています。欧州債務問題は高水準な失業率等の根本的な原因が解決したわけではありませんので、引き続き目が離せない状態です。
2014年は、欧州債務危機に見舞われた国々への支援プログラムが満期を迎えました。IMFによる管理の下、経常収支の改善などは見られますが、経済の本格回復にはなお時間が必要であると思われます。
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Adriano Aurelio Araujo
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