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こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、米経済の状況によって各国の為替レートがどのような影響を受けるかを検討します。米経済の動向を見る指標として「非農業部門雇用者数」と「小売売上高」を取り上げ、2009~2012年の各月の数値と為替レートの相関係数を取ります。結果だけを述べると、小売売上高との関係は特に高い相関を示す通貨は見つかりませんでしたが、非農業部門雇用者数については高く相関を示す通貨が多くありました。分析結果に加え、その特徴などを簡単に考察します。


米経済の動向を見る指標

米国の経済と各国の為替レートを比較する時、大きく分けて2種類の方法があると考えられます。一つはGDP成長率等の数値と為替レートを比較する長期スパンによる分析、もう一つは経済指標と為替レートを比較する短期スパンによる分析です。

前者を行うなら、10年や30年といった長期のデータを用いる必要はありますが、新興国通貨を中心に通貨制度が変わっている場合も多く、為替レートの連続性が損なわれている通貨も多いです。そこで今回は、短期に絞った上で、毎月公表される経済指標を用いて分析を行います。

後者の経済指標には多くのものがありますが、代表的なものだけでも、

・新築住宅販売件数

・新規失業保険申請件数

・ミシガン大学消費者信頼感指数

・ISM製造業景況指数

・小売売上高

・非農業部門雇用者数

・フィラデルフィア連銀景況指数

・消費者物価指数

など枚挙に暇は有りません。

ここでは、米国の民間消費の動向を見る上で重要な「小売売上高」と、米国の雇用動向を見る上で重要な「非農業部門雇用者数」を取り上げましょう。


分析方法

分析期間は、2009年~2012年までとします。為替レートの連続性を担保する事と、また、リーマンショックによる影響を取り除く為に2008年のデータを除外する事が理由です。

当該期間について、米国の「小売売上高(前月比)」と「非農業部門雇用者数」の各月データを取得します。様々な経済指標が「 みんなの外為 」でまとめられているので、そのデータを利用します。

参考1: 米・非農業部門雇用者数(みんなの外為)

参考2: 米・小売売上高(前月比)(みんなの外為)

なお、小売売上高は「全データ」と「自動車を除いたデータ」がありますが、どちらもそれほどトレンド自体は変わらず、今回は相関関係を見るだけなので、全データを利用します。

比較する通貨は、「 PACIFIC Exchange Rate Service (The University of British Columbia) 」で公開されている通貨のうち、2009年1月~2012年12月の各月までのデータが揃っており、かつ、為替レートが変動する通貨62種類です。これらの通貨の対米ドル名目為替レートを取得します。 各指標と為替レートの相関係数を計算します。


小売売上高との比較

小売売上高(前月比)と為替レートとの相関係数の一覧が下図1です。イギリス・ポンドやポーランド・ズロチは正の低相関と言えなくもないですが、高く相関しているとは言えません。全体的に無相関に近いのが多く、少なくとも2009~2012年に関しては米国の小売売上高と連動する為替レートは無いと言って良いでしょう。

図1:米国小売売上高と為替レートとの相関係数 出典:筆者作成

図1:米国小売売上高と為替レートとの相関係数

出典:筆者作成


非農業部門雇用者数との比較

一方で図2は、非農業部門雇用者数との相関を見たものです。高く正の相関・高く負の相関の傾向を示す通貨がいくつもある事がわかります。一般に相関係数の絶対値が0.7以上になると高く相関していると解釈されるので、その部分を橙色に、絶対値が0.5~0.7くらいを中程度の相関と解釈されるので、その部分を水色で示しています。

図2:米国非農業部門雇用者数と為替レートの相関係数 出典:筆者作成

図2:米国非農業部門雇用者数と為替レートの相関係数

出典:筆者作成

カナダ・ドルや韓国ウォン、オーストラリア・ドル、ニュージーランド・ドルなどを筆頭に、高く正の相関を示しています。比較しているレートが「USD/比較通貨」なので、正の相関を示している通貨は、「米国の非農業部門雇用者数が増えるとドル安(比較通貨高)」になり、「米国の非農業部門雇用者数が減るとドル高(比較通貨安)」になる傾向を持っています。

一方で、トリニダード・トバゴ・ドルやボリバル・フエルテ、ベトナム・ドン等の通貨は高い負の相関を示しています。こちらは「米国の非農業部門雇用者数が増えるとドル高(比較通貨安)」になり、「米国の非農業部門雇用者数が減るとドル安(比較通貨高)」になる傾向を持っています。


結果の考察

一般的に国際収支説に立てば、

自国経済の好調 → 経常収支の改善 → 自国通貨高

となると考えられ、米経済の好転はドル高になっている方が自然かもしれません。しかし、実態としては、米経済指標が好転した時にドル安になっている通貨が多いです。これは何故でしょうか。この理由を考える時、注意しなければならないのは、

(1)米経済の好調 → ドル安(比較通貨高)

(2)ドル安(比較通貨高) → 米経済の好調

のどちらの因果関係が成立するか、あるいはどちらの因果関係も成立しないかです。

(2)のルートなら説明しやすく、「ドル安 → 輸出業好調のシグナル → 非農業部門企業が被雇用者を増やす」といった経路は十分に想定出来ます。

勿論、両者の相関が偶然であり、単なる擬似相関である可能性はありますが、経済指標の発表時期と為替レートの動きなどを細かく見る事で、もう少し因果関係を検証する事は可能でしょう。

photo credit: Werner Kunz via photopin cc