チェックリストに「実行済」でヌケモレ防止!

西真理子,カリスマ秘書,速くて正確な仕事
(写真=The 21 online/西真理子(ランゲージ・マジック・ファクトリー代表))

経営者や役員の秘書は、その人の代理となってさまざまな仕事を効率よく行なわなければならない。秘書のミスは経営者のミスとなり、会社の信用にもかかわる事態になりかねない。ミスをしないためにどのような工夫をしているのか、「カリスマ秘書」の西真理子氏にうかがった。

「誰かやってくれるはず」がミスの元!

外資系一流企業数社で役員秘書を務めた経験を持つ、西真理子氏。秘書といえば気配りの達人というイメージだが、実はそんな秘書だからこそ起こしてしまいやすいミスがあったそうだ。

「一流企業の秘書には気配りができる人材が集まっています。それゆえ起こりやすいミスのひとつに、『あの人がやってくれているだろう』という思い込みによるミスがあります。『自分が気づいているのだから、周囲も気づいているはず』とお互いに思い込み、誰も着手していなかった……という事態になってしまう、ということです。

実は私もこのミスの経験があります。海外からいらっしゃる大切なお客様用のスケジュール表を先輩と作成したのですが、当日に迎車の手配がされていないことが発覚したのです。その先輩はとても優秀で気配りの行き届いた方だったので、当然手配していると思っていたら、先輩のほうは私がやっていると思っていた……というコミュニケーションの行き違いでした。幸い社用車の運転手とすぐに連絡がつき、事なきを得ましたが、これ以降はさらに細かい連携フローを作成することで改善を図りました。『誰が・誰に・いつ・何をするか』というリストに『実行済』というチェック項目を加えて、タスクの抜け漏れを防ぐようにしました。

情報共有不足によるミスも秘書室では起こりがちです。たとえば、ときどき社名を名乗らず苗字だけ名乗って電話をかけてくるお客様がいらっしゃいます。その方が上司と親しい方の場合、『どちらの』と聞き返すと大問題になりかねません。秘書室の人間ならそれを知っていて当たり前なのですが、異動や新卒の配属時期はこうした情報を共有することは必須事項でした」

一人でできる仕事もあえて二人で確認を

こうしたことに加え、「一人でできる仕事でも、あえて複数人で確認しながら行なうという方法も採っていた」と話す。

「請求書など、絶対に送り間違えてはいけない書類を発送する際、先輩は常に私をアシスタント役に据えました。封筒と請求書の宛名が合っているか、二人で読み合わせをしてから封を閉じていたのです。お礼状や招待状なども、複数名での確認は必須です。宛名間違いは相手に失礼ですし、ひいては会社の信用にもかかわりますから」

こうしたシステムはトライ&エラーで確立したものも多いが、それに加えて常に日頃からミス防止のために心がけていたことがあるという。

「常に想像力を働かせることです。何か仕事を頼まれたとき『どうするのが相手にとって最善か』と、物事を先回りして想像するのです。

たとえば、上司が今から急な出張に出かけることになったとします。『すぐに出発するから、新幹線の時間だけ教えて』と言われたときのベストな対処法は何だと思いますか? 私がこうしたとき使っていたアイテムは、紙ベースの時刻表です。今ならネットやアプリで調べられる乗り換え案内も必須アイテムかもしれませんが、駅まで行くのにかかる時間によって、それより一本早い(遅い)便になるかもしれません。バッファーを持たせる意味で『○時○分前後の東京発の新幹線の時間』を一覧で見るには、時刻表のほうが便利なのです。

この他、出張の際のスケジュールを立てるときなども、予定が前後した場合に備え、必ず余裕を持たせるようにしていました。ただし、人によっては時間通りに行動するタイプの上司もいて、『なんでこんなに余裕があるの』と言われることもあったので、そういう場合は相手に確認しながら臨機応変に対応していました。これは上司の予定を管理するという秘書ならではの仕事ですが、上司と一緒に出張する機会が多い方もいらっしゃるでしょう。そういう方は、相手がどのように行動したいか想像力を働かせましょう」

B5の速記帳にあらゆる指示をメモ

このように、常に相手の意向を確認しながら仕事をすることが求められる。そこで使っていたツールとしては「メモ」が欠かせなかったという。

「電話応対の際や、口頭で指示を受けたときは、メモを取ることが基本中の基本ですよね。私はB5サイズの縦型の速記帳を愛用していました。立ったままでも書きやすく、個人的に気に入っていました。

やむをえず他の紙に書いたメモは、速記帳にテープやホチキスですぐにそのまま留めて、日付と時間を記入していました。バラバラになっていると間違えて捨ててしまったりして、ミスを誘発するからです。

メモを取るときは、固有名詞や日時、場所は間違いのないよう復唱して書き留めていました。上司は忙しいので、パッと指示して終わりになりがちですが、こうしたひと手間をかけることでミスを防ぐことができていたと思います」

西氏が実践していた「敏腕秘書のミスゼロ4箇条」

【スケジュールのミス防止術】

大事なのは、バッファーを取ること
「入れるべきアポか否かは必ず上司の意向を確認」「前後の予定が延びることを想定し、なるべくバッファーを設けて予定を入れる」などは基本。そのうえで、秘書自身がミスをしていなくても、上司が勝手に入れた予定を秘書に伝えていなかったためのダブルブッキング、という事態があったという。この場合大事なのはアフターフォロー。お断わりするアポイントの相手には「急な出張」などやむを得ない(と思っていただける)理由を述べたうえで、なるべく最短で別の日程を提示。会食の約束を変更した場合であれば、店の予約の取り直しといった手配をすべて自社側で行なうなど、最大限の配慮を。

【伝達のミス防止術】

「書類を渡して終わり」は危険
取引先から上司へ、社内の部下から上司へ、といった連絡や伝達も秘書の仕事。ここで心がけるべきは「相手を信用しすぎないこと」。多忙な上司相手の場合、メールを送る、書類を渡す、という「作業」だけで伝達業務が終わったととらえるのは厳禁。とくに大切な案件の場合、「きっと目を通しているだろう」という期待をせず、顔を合わせるときに必ず、伝わっているかどうか確認することが重要だ。会合への出欠など、すぐに確認して返答すべきことなら、急ぎである理由を説明しつつ、口頭で手配の可否や段取りの許可をその場でもらうこと。そのうえで、一度伝えただけでは済ませずに、折に触れて何度か確認する。

【優先順位のミス防止術】

「どれが先か」を上司に判断してもらう
仕事中に、上司から突然別の仕事を指示されることは、秘書業務では日常茶飯事。このとき、「急いでいるから、今頼んだ仕事を最優先で」と言われる場合もあるが、そう言わなくても上司側としては最優先でやってほしいと思っている場合もある。着手中の別の仕事を先に片づけてしまいたいところだが、優先順位付けに迷うときには自己判断せず「今、こちらの仕事をしていますが、どちらを先に終わらせましょうか」と上司の判断を仰ぐこと。そうすることで上司自身も、いったん立ち止まって優先順位を考えてくれる。急に仕事を振ってくる上司がいる場合、この方法は使えるのではないだろうか。

【電話応対のミス防止術】

社名を名乗らない相手にどう対処する?
経営者や役員と親しい相手が電話をかけてくるとき、相手が苗字のみを名乗り、社名を名乗らない場合があった。この場合、「どちらの」と聞き返すと、失礼な物言いと受け取られることがある。いつもかけてくる相手については「苗字しか名乗らない鈴木さん」などと覚えておき、取り次ぐ対応を。非通知でなければ番号を控えておくのも得策だ。ただし、「いつもの相手」かどうかわからない相手で、実はセールスの電話だった……などという場合もある。失礼なく確認したい場合は、「恐れ入りますが、念のため」と前置きして電話番号を聞き、折り返しの対応にするなどしていた。

西真理子(にし・まりこ)ランゲージ・マジック・ファクトリー代表
長崎県生まれ。1990年、国際基督教大学教養学部卒業。外資系企業数社にて役員秘書・エグゼクティブアシスタントを務めたのち、現在は秘書技術およびビジネス英語をはじめとするビジネススキル講座講師、また英語コーチとして教育やトレーニング事業に携わる。国際秘書検定、秘書検定一級合格。日本人として初めて米国公認秘書検定、米国上級秘書検定に合格。英検一級。著書に、『「できる秘書」と「ダメ秘書」の習慣』(明日香出版社)などがある。(取材・構成:内埜さくら 写真撮影:まるやゆういち)(『 The 21 online 』2017年6月号より)

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