シェールガス-300x242

こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。

今回は、米ドルの為替レートとシェールガス革命の関係を見たいと思います。まずシェールガス革命の概要について触れた上で、それを元にその為替レートとの関係を見る簡単なモデルを作ります。モデルからの分析結果を考察した結果を先取りすると、シェールガス革命は少なくとも円ドルレートには大きな影響を与えていますが、逆に言えば、シェールガス一つでここまで円ドルレートに影響を与えるのは、日米の経済関係の規模から考えて過大評価である事が示唆されます。


シェールガス革命とは

シェールガス革命のシェールガスは、地下1000mとか2000mといった深い地層シェール層に含まれる天然ガスの事です。
シェールガス革命と呼ばれるようになったのは、安価でガスを取り出す技術が開発され、商業ベースで採掘が可能になり、しかもその埋蔵量が200年分にも達するからです。 シェールガスの約4割は米国にあるとされ、いずれ米国は資源の純輸出国になると言われており、代替エネルギーの必要性が叫ばれる中で注目されているわけです。

シェールガスがそれだけ注目され、実際に多くのシェールガスが米国から輸出されるなら、それだけ米ドルも買われるはずであり、為替レートに影響があるかもしれません。特に、日本は原子力発電所が動かせない状態で化石燃料の輸入量が増加している状況を見れば、円ドルレートにも大きな影響を与えている可能性があります。


モデル構築の準備

モデルを作る前に、もう少しシェールガスについての情報を見なければなりません。

下図1は、日米欧の天然ガス価格の推移を示しています。
見ての通り、リーマンショックによる大暴落は共通していますが、その後、日欧では大きく値上がりしているにも関わらず、米国の天然ガス価格は低い水準で留まっています。
2012年頃から米国の天然ガス価格が回復し始め、日欧の価格が低下し始めているのは、米国のシェールガスが他国の天然ガス価格に影響し始めるようになったからかもしれません。

日米欧の天然ガス価格の推移

図1:日米欧の天然ガス価格の推移

出典:世界経済のネタ帳

この米国天然ガス価格が為替レートに影響を与えているかを見る為に、まず、米国の天然ガス価格と為替レートを比較してみましょう。
下図2は、米国天然ガス価格と名目実効為替レート・実質実効為替レートを比較したものです。
リーマンショックによる暴落でグラフが見難くなる上、シェールガス生産の実用化による影響を見る為に、2010年以降の数値に限定しています。
しかし、あまり実効為替レートとはあまり相関しているように見えません。

米国の天然ガス価格と実効為替レートの推移

図2:米国の天然ガス価格と実効為替レートの推移

出典:天然ガス価格は「世界経済のネタ帳」、実効為替レートは「国際決済銀行」。

注:左軸は実効為替レート指数、右軸は天然ガス価格(米ドル/100万BTU)

本格的な輸出が始まったのは比較的最近ですし、もし影響があるとすれば、最近の短い期間に限定されるかもしれません。実際、米国から日本へのシェールガスの輸出が解禁されたのも2013年5月の話です。また、 Googleトレンド で調べても、「シェールガス」や「シェールガス革命」での検索数が爆発的に増えたのは2013年に入ってからであり、2013年以降に絞って分析する方が良さそうです。

2013年1~10月だけに絞って円ドルレートと米国天然ガス価格を比較したものが図3です。相関係数は0.56で、ある程度相関している事が分かります。しかし、2013年の円ドルレートはアベノミクス以降の金融緩和の影響を大きく受けていると思われるので、その影響を考慮しつつ天然ガス価格と円ドルレートの関係を見なければなりません。

米国天然ガス価格と円ドルレートの推移

図3:米国天然ガス価格と円ドルレートの推移

出典:世界経済のネタ帳

注:左軸は円ドルレート(円/ドル)、右軸は天然ガス価格(米ドル/100万BTU)




モデルとその構築

前節までの内容を踏まえ、モデルを構築します。 まず、分析期間を2013年1~10に限定し、分析目的を円ドル名目為替レートと米国天然ガス価格の関係を見る事にします。 しかし、天然ガス価格だけで単回帰分析を行っても有意水準に達していません。

そこで、日米の金融緩和の影響を考慮する為に、日米のマネタリーベースをモデルに組み込みます。ソロスチャートのような「マネタリーベースの比」を使う事はマネタリーベースの規模による影響が反映されなくなるので、独立させてモデルに入れます。

しかし、日米は金融緩和を競い合うようにして行っている部分があり、両者は高く相関(相関係数:0.982)しています。ここでは詳しくは述べませんが、そのまま回帰モデルに入れると多重共線性の問題が発生するので、日銀のマネタリーベースとFRBのマネタリーベースから主成分分析を行い、主成分を抽出します。

マネタリーベースの主成分と円ドルレートをプロットしたものが下図4です。マネタリーベースは全体的に増えつつありますが、円安は5月くらいがピークになっており、単独で為替レートを説明する回帰分析を行っても、自由度修正済決定係数は0.444(5%水準で有意)で、それほど高い説明力を持っているわけではありません。

マネタリーベース主成分と円ドルレート

図4:マネタリーベース主成分と円ドルレート

出典:円ドルレートは同上、主成分は筆者作成。

そこで、マネタリーベース主成分と米国天然ガス価格の2つを用いた重回帰分析を行います。回帰モデルは、

円ドルレート = a × マネタリーベース主成分 + b × 天然ガス価格 + c

になります。


分析結果の考察

分析結果は以下に示す通りです。
ベースマネー主成分だけなら自由度修正済決定係数(補正 R2)は0.444でしたが、天然ガス価格をモデルに入れる事によって0.729にまで上がりました。

回帰統計1

回帰統計2

回帰式は、

円ドルレート = 2.435 × ベースマネー主成分 + 6.601 × 天然ガス価格 + 72.538

になり、天然ガス価格も変数として有意性を持つようになりました。少なくとも2013年1~10月においては日米ベースマネーと米国天然ガス価格で円ドルレートの72.9%を説明出来る事になります。


シェールガスへの過大評価懸念

シェールガスが円ドルレートに大きな影響を与えている可能性は示唆されましたが、それが今後も続くかは分かりません。
というのは、日米の経済交流は活発で、貿易だけで見ても天然ガス輸入は一部ですし、貿易以外の為替投資、国際決済などを含めれば、天然ガス取引は一部に過ぎません。

天然ガス価格が為替レートに因果関係があるかどうかは分かりませんが、あるとすれば、天然ガスが過大評価されていると解釈する事が出来るでしょう。

photo credit: chucknado via photopin cc