こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。
今回は、為替相場に1月効果があるかを検討します。まず、1月効果など効率的市場仮説で説明出来ないアノマリーについて簡単に解説した上で、「1月効果」がどのようなものかを説明します。その上で「1月効果」が存在するかどうかを検討します。最後に、アノマリーが存在した場合、それを投資に活かす場合の注意点を補足します。
アノマリーとは
アノマリー(Anomaly))とは、辞書的な意味では「例外」とか「変則」というように訳されますが、経済学や金融においては「効率的市場仮説で説明出来ない現象」という意味合いで使われる事が多いです。要するに、効率的市場仮説の例外です。
効率的市場仮説とは、証券価格などに全ての利用可能な情報が瞬時に反映されており、裁定取引が不可能であるという仮説です。
勿論、長期的には市場はそれなりに効率的であって、価格が理論価格に収束していく事が多いのですが、短期的には理論価格から乖離する事は多々あります。こうした例外をアノマリーと呼び、バブルといった現象もアノマリーの一種です。そのアノマリーの一つにあるとされるのが「1月効果」です。
1月効果とは
1月効果がよく言われるのは実は「株式投資」の分野で、その効果は「あったりなかったり」と様々です。株式投資における1月効果のストーリーは、「年末に利益を確定させる投資家が多い故に12月末の株価が低い傾向にあり、その後年明けに再投資する事により、1月の収益率が高い」というものです。 また、他にも「6月効果」や「12月効果」、日本では「4月効果」といった報告例もあります。 それでは、為替投資において1月効果は存在するでしょうか。
分析手法
株式投資における1月効果は米国で特に報告例があるので、為替レートについても米ドルで見てみましょう。
ここではあくまでも全体的な相場動向を見て1月効果の有無を検証するので、特定通貨との為替レートの変動率を見るのではなく、米ドルの実質実効為替レートを利用します。
実質実効為替レートは、当該通貨を利用する国との貿易額のウェイトを考慮して加重平均した為替レートをインフレ率で調整したものです。61地域を対象にした広域実効為替レート(1994年~)と27地域を対象とした狭域実効為替レート(1964年~)があります。実質実効為替レートは国際決済銀行(BIS)が作成しており、以下で参照出来ます。
参考:
BIS effective exchange rate indices (BANK FOR INTERNATIONAL SETTLEMENTS)
今回は長期データを利用したいので、狭域実効為替レートを使います。
まず、アノマリーの動向を年代毎に見る為に、期間を(1)1973~1982年、(2)1983~1992年、(3)1993~2002年、(4)2003~2012年に区分します。実効為替レートの数値は月毎に存在するので、各月の変動率(前月の為替レートからの変化率)を計算します。それをグラフでプロットし、概観した上で有意差検定を行います。
分析結果
年代毎に月別の収益率を図示したものが下図になります。
これによると、1993~2002年の1月の収益率は高いですが、他の年代の1月収益率は高くありません。概観した時に、株式市場研究で報告される「6月効果」や「10月効果」が存在する可能性はありますが、いずれの月も有意差検定では有意差は出ていません。
図1:米ドル実効為替レートの月別変動率
出典:実質実効為替レート(BIS)より筆者作成
注:縦軸は割合(%)を示す。なお、各月は前月の平均相場からの変動率を示す。
また、参考として同時期の名目円ドルレートの変動率を集計したものを下図2に示しています。
こちらも10月や1993~2002年の1月など似た動きをしていますが、いずれの年代も有意差は出ていません。
図2:円ドル名目為替レートの月別変動率
出典: PACIFIC Exchange Rate Service(The University of British Columbia) より作成
注:縦軸は割合(%)を示す。なお、各月は前月の平均相場からの変動率を示す。
アノマリーについての注意点
今回為替レートのアノマリーを統計学的に有意な形で検出出来ませんでしたが、先行研究でも賛否両論ですし、1月効果を検証したとする報告においても「必ず効果が現れているわけではない」といった意見が多いようです。 今後もアノマリーについての文献が多数出てくると思われますが、それを投資に活かす際は 「参考程度」にするのが良い と思われます。というのは、理論で説明が出来ていないが故のアノマリーですので、その 再現性は極めて不確実 ですし、仮にアノマリーが投資に対して有効であると明らかになっても、 有効性が明らかになった時点でそのアノマリーが消失する可能性がある からです。
実際、株式投資における1月効果は過去においては存在した可能性が高いのですが、現在はあまり見られない現象になっています。
「1月効果が実証された事を知った多数の投資家が1月に株式を購入する」という行動を取れば、1月の株価が上昇して1月の期待収益率が下がってしまうからです。