「銀行員ってゴルフをしないといけないんですか?」そう聞かれることがある。必須ではないが、やらないよりはやれたほうが良いことは確かだ。必ずしもシングルのような腕前が必要なわけではない。どんな嫌なときでもゴルフの誘いに笑顔で応じ、マイカーで上司を送り迎えするだけで十分である。

とはいえ、時代は変わった。ゴルフだけで世の中渡り歩けるほど甘くないのも事実だ。

支店のコンペに接待…銀行員とゴルフの関係

「やあ、休日なのに大変だね。今日は接待、それともプライベート?」
「プライベートならこんな高いコースには来ないよ。お客さんと一緒だよ。お互い大変だね」

週末のゴルフ場で、しばしば顔見知りの銀行員を見かけることがある。お客様の接待、そしてプライベートと銀行員はゴルフをする機会が多いのは間違いない。

かつてよりもその「重要性」は低下しているが、ゴルフができるにこしたことはない。もちろん、所属する部署によっても異なるだろう。実際、私が所属している部署では接待は少ないし、ゴルフの重要性は相当低い。しかし、支店に配属されたなら、やはりゴルフはやっておいたほうが何かと便利だ。

私が銀行員になって間もなく、先輩や上司にゴルフに連れて行かれた。「銀行に入ったからには絶対にゴルフをしなければならない」と教えられた。

実際にその言葉通りだった。支店のコンペが頻繁に行われるだけでなく、役職に就けば接待にゴルフは欠かせないからだ。

ほとんどの銀行員は自腹でプレイしている?

実際問題として、顧客と良好な関係を築くために、ゴルフで一緒にラウンドするのは有意義だ。ビジネスの場では互いに限られた時間の中でやりとりしなければならないし、必要最低限のビジネス上の会話を交わすだけで終わってしまうことも珍しくない。

しかし、一緒にラウンドすることで顧客と「たっぷりと時間を共有できる」メリットは大きい。ビジネスの場では知ることができなかった相手の一面を理解することもできるし、伝えきれなかったこちらの想いをじっくりと話すこともできる。そういう点では決して悪いものではない。

接待ゴルフといえば、何となくネガティブなイメージを抱く人もいるだろう。銀行の経費をふんだんに使って平日にラウンドを楽しんだり、相手に「貸しをつくる」ことで交渉を優位に進めたり……しかし、現実はそんなに甘いものではない。ただでさえ経費削減とうるさいこのご時世では「経費を使った豪遊」など許されない。ほとんどの銀行員は自腹でプレイしているのが現実だ。

コンペの企画はコーポレート・ガバナンスの縮図だ

かつて、ゴルフといえば部下の忠誠心を確かめる場であった。部下にとっては、上司に取り立ててもらう場でもあった。戦国時代の合戦よろしく、ここで華々しい武功を上げれば上司の覚えめでたく、重用してもらえる可能性が高い。これは銀行に限った話ではないだろう。

「戦い」はラウンドの前から始まっている。支店のコンペ当日の朝、上司の家へクルマでお迎えに上がることはもちろんのこと、ゴルフ場も上司の好みをセレクトする。

どんなメンバーでラウンドするかという組合せを差配するのも一苦労だ。腕前にもよるが、スコアが悪ければ当然雰囲気も暗くなるし、進行の遅い組ができてしまうと白けてしまう。上司のお気に入りの女性行員をわざと同じ組に押し込むことも忘れてはならない。

コンペの賞品選びにもきめ細やかな配慮が求められる。「支店長は新しいドライバーを欲しがっている」そんな情報を得ると、実際にそれを獲得できるように段取りしなければならない。支店長のスコアは90くらい、でも次長は80台で上がってくる可能性がある。「それなら、支店長が欲しがっているドライバーは2位の商品にするのが良いのではないか」そんなことで頭を悩ますのだ。

組織をマネジメントし、上手く運営する観点で考えるとゴルフコンペの企画もまんざら仕事と無関係とは言えない。いわば、コーポレート・ガバナンスの縮図のようなものである。多くを学ぶことができるし、それはそれで楽しいことだ。こうした根回しが上手くできる人は、仕事においても同様の「気遣い」ができる人であることは間違いない。

とはいえ、ゴルフをしない人も決して気落ちする必要はない。時代は急速に変化しているし、いまでは銀行におけるゴルフの重要度も大きく低下している。最近の新人の中には堂々と「ゴルフはしません」と宣言する者も現れるご時世である。ゴルフよりも、先に述べたような根回し、気遣いができるかが重要といえる。

銀行員も顧客もゴルフ好きが多い。必須ではないが、やらないよりはやれたほうが何かと便利だ。その程度に考えたほうが良いだろう。(或る銀行員)