日本の商社大手3社の一角、伊藤忠商事が8月4日、2017年4~6月期の決算を発表した。結果は、10.1%増収、48.0%増益と好調であった。株主に帰属する純利益は1082億円。前年同期と比べて351億円増えている。

その増加分の内訳を見ると、最も大きいのは金属で127億円。鉄鉱石、石炭価格の上昇などが寄与した。次に大きいのは食品で65億円。青物関連事業の取引増加、経費減少、生鮮食品関連取引における価格上昇、ユニー・ファミリーマート統合に伴う持ち分法投資損益の増加などが寄与した。そして、3番目に大きいのがCITIC Limited 取り込み損益の増加である。これが59億円、全体増加分の16.8%に及ぶ。

CITIC Limited(00267)は香港市場に上場する中国政府(国務院)直属の中国中信集団(CITIC)傘下の投資会社である。2014年に親会社から主要事業のほぼすべてに当たる大規模な資産注入を受け、現在は銀行、証券、保険、ファンド、資産管理など金融を中心に、資源エネルギー、建設、インフラ設備、機械、不動産開発、情報産業など広範な事業に投資する中国最大のコングロマリット企業となっている。

同社は2015年1月、このCITIC Limitedの株式20%を総額1兆2000億円で、タイ最大、アジア有数のコングロマリットで同社と資本関係のあるCharoen Pokphandと折半で取得した。したがって、今回の利益はCITIC Limitedの利益の10%に相当する。この大型投資が同社の業績をけん引しているといえよう。

CITIC Limitedへの投資は評価損だが、収益貢献は大きい

伊藤忠,中国,CITIC
(写真=PIXTA)

CITIC Limitedへの投資の利点として、以下の2点が考えられる。

第1点は、純粋にCITIC Limitedへの投資価値である。
2016年12月期におけるCITIC Limitedの決算書によれば、同社とCharoen Pokphandとの合弁会社である正大光明投資有限公司はCITIC Limitedの発行済み株式総数の20%を取得している。

株数は58億1805万株であり、8月8日現在の株価は12.22香港ドルである。したがって、市場価値は710億9661万香港ドルとなる。1香港ドル=14円で換算すれば、同社の持ち分は半分なので、4977億円相当の価値となる。同社の投資額6000億円と比べれば17%ほど目減りしていることになる。

ただし、業績は安定している。2016年12月期の純利益は3.1%増益の431億1900万香港ドルであった。円換算して持ち分を計算すると、604億円相当である。CITIC Limitedは金融面が強い。傘下のCITIC証券は総資産、収益などで本土最大クラスの総合証券会社であり、中信銀行は企業向け融資に強い中堅銀行である。同社は中国金融の重要な一部を所有しているといえよう。

非金融分野では、今年に入り、子会社を通して、マクドナルドの中国・香港事業を統括する管理会社をアメリカ・カーライル社とともに買収したり、傘下の自動車部品メーカーが電気自動車部品メーカーを買収したり、事業拡大を進めている。

金融部門の売上比率が5割程度と高いが、比較的収益の読みやすい銀行のほか、収益変動の大きな証券関連ビジネスを含むので全体の業績予想は難しい。ただ、本土、香港株式市場が活況となっており、現段階で欧米系アナリストの予想を見る限り、ほとんどが増益で予想を出している。同社の今期業績見通しにとって、これは明るい材料である。

中国中信集団(CITIC)は中央系としては最大規模の親日組織

第2点は、CITIC Limitedの持つ事業網の有効活用である。
同社は総合商社として、競合他社と比べ、資源以外のウエイトが高い。繊維、機械、食料、住生活、情報・金融などバランスのとれた事業展開をしており、それぞれの分野が中国ビジネスとかかわりを持っている。CITICの人脈、情報力が本業の強化に役立っている。

CITIC Limitedや、親会社である中国中信集団(CITIC)の董事長である常振明氏は1980年代前半に日本の大手証券会社のトレーニーとして数か月、日本に滞在した経験を持つ。日中関係が冷え込む中、中国中信集団(CITIC)は、日本企業が国家クラスの企業と資本提携関係が持てる数少ない国家組織である。

中国は1978年の改革開放以来、長年に渡って国有企業改革を進めてきた。1990年に国内に取引所を設立、株式制度を確立し、香港での海外上場などを通じて、国有企業の民営化、国際化を進めてきた。現在行われているのは、上場会社の上位に存在する集団公司(持ち株会社)の民営化、国際化である。混合所有制改革と呼ばれる最後の大改革が各国有企業集団で始まっている。

中国中信集団(CITIC)は2015年1月、その資産をほぼすべてCITIC Limitedに注入しており、そこに民営企業で外資でもある同社とCharoen Pokphandの合弁会社が株主として資本参加している。大きなビジネスでは欧米系の資本参入が目立つ中、同社が国家政策である混合所有制改革に参加したという点で大きな意味がある。

社会主義市場経済下では、ビジネスの仕組みが欧米型市場経済とは大きく異なる。中央政府、地方政府、有力企業といった人脈や、特異なビジネス習慣に精通しない限り、事業を上手く行うことは難しい。

中国は世界第2位の経済規模を誇り、鈍化したとはいえ、6%を超える成長を続けている。中国市場を攻略しない限り、グローバル企業が発展を続けるのは難しい。

CITIC Limited、伊藤忠商事に求めるのはビッグビジネス

同社にも課題はある。中国ビジネスをよく知る企業ではあるが、それでも中国のビジネススタイルに合わせるのは大変である。十数年ほど前のことだが、「中信証券は、ゴールドマン・サックスを10年で追い越すことを目標として成長戦略を考えている」と中信証券幹部から聞いたことがある。

彼らの視線はいつも「より遠く、より大きい」。CITIC Limitedとすれば、細かい業務提携案件などにはあまり興味がないだろう。CITIC Limitedのバランスシートや収益構造が変わるような大型案件を持ってくることを、同社やCharoen Pokphandに期待しているはずだ。CITIC Limitedの持つ有形、無形の強みを最大限に生かすにはこちらの側ではっきりとした成長ビジョンや大きな戦略を持つことが必要であろう。

田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ 代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。投資助言、有料レポート配信、証券会社、情報配信会社への情報提供などを行う。社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。東京工業大学大学院理工学専攻修了。人民元投資入門(2013年、日経BP)、中国株「黄金の10年」(共著、2010年、小学館)など著書多数。One Tap BUY にアメリカ株情報を提供中。HP: http://china-research.co.jp/