今日「経済」という言葉は、「生産、流通、消費などにかかわる社会関係や人間活動」という理解に収まっている。だがその語源は、「経国済民」または「経世済民」すなわち「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」ことである。歴史的に見れば、古典ギリシャ語のoikonomia(家政)に由来する英語のeconomyであれ、漢語の「經濟」(「政治」と同義)であれ、political economyの翻訳語である「経済」であれ、いずれも古くから語義の変容を遂げてきた。

本書の著者である青木泰樹氏は、経済政策の目的を「経世済民」にあると捉え、狭義の「経済(学)」専門家として国の経済政策に強い影響力を持つ現代エコノミストたちのまき散らす「嘘」を暴き、さらにその嘘を見抜くための基礎知識を提供してくれる。

経済学者はなぜ嘘をつくのか

著者:青木泰樹
出版社:アスペクト
発売日:2016年4月1日

温かい心を失った主流派経済学者

経済学者はなぜ嘘をつくのか
(画像=Webサイトより)

本書の冒頭、「冷静な頭脳と温かい心を持て(cool heads but warm hearts)」というアルフレッド・マーシャルの言葉が掲げられている。「温かい心」とは、他者の尊重、弱者への労り、社会への配慮であり、伝統への敬意や郷土を破壊から守る意志も含まれよう。

需要側を重視するケインズ経済学者に取って代わって主流派となった、供給側を重視する経済学者は、いつしか温かい心を失い、「冷徹な論理だけを振りかざし、国民に襲いかかる」獰猛さをあらわにしはじめた。彼らは「国民や国家の事情」を一切顧慮せず、「主流派経済学の論理に基づく政策を為政者に吹き込み、実行させている」という。

著者が批判の俎上にのせているのは、そうした経済学者の唱える財政均衡主義や効率至上主義、新自由主義的政策やグローバリズム、(金融政策だけで需給ギャップは解消できると主張する)リフレ政策である。それらの論理矛盾や国民経済への悪影響を著者は鮮やかに解き明かしている。

経済社会学の視座から