最近では、放棄したくてもできない土地や所有者がわからない土地、地価のわりに費用がかかるため、所有権移転登記をしていない土地が増えている。これらを「負動産(ふどうさん)」と呼ばれているが、相続の際にも大きな障害になっている。

「名義変更」されていない土地

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(写真=PIXTA)

先日ある相続の相談を受けた際、こんなことを言われた。

「『遺産分割協議書』の作成をお願いしたいのですが、その前に一つ困ったことがあります」

相談者であるAさんの母Cさんが先日、亡くなった。既に父親が亡くなっていたため、相続はAさんと弟Bさんの2人だけである。幸い兄弟仲がいいので、遺産の分割はスムーズにいきそうである。

ただ遺産のリストを作る段階で驚くようなことがわかった。それはCさんの所有だと思っていた土地が、Aさんの父親の父親、つまり祖父Dさんの名義のままだったのである。Dさんが亡くなった後に土地の名義変更を行っていなかったということになる。

家とその敷地は母親Cさんの名義なので問題なかったが、家の近くにある空き地がDさんの名義だったのである。AさんはBさんと話し合い、この土地をAさんが相続することにした。しかしこの土地は既に30年前に亡くなっているDさんの名義のままである。「今後の手続きはどうしたらいいでしょうか」とAさんは悩んで相談に来られたのである。

複雑になる相続手続き

そこで筆者はAさんに以下のように説明した。

「まずこの土地の法定相続人を確定する必要がある。そのためには、Dさん『戸籍謄本』を取り寄せなければならない。Dさんが生まれてから亡くなるまでの連続した『戸籍謄本』である。そうすることで、法定相続人が判明する。それからその相続人が健在かどうかも調べる必要がある。もし亡くなっていたら、その配偶者や子どもが相続人ということになる。その後は、その人たちに、ことの経緯を説明し、この土地だけの『遺産分割協議書』を作成するのである」

Aさんが調べてみたところ、祖父Dさんには子どもが2人いることがわかった。長男はAさんの父親だ。次男は(Aさんの叔父)5年前に亡くなっており、その妻と長男がいるという。

従ってこの土地の法定相続人は、AさんとBさんの兄弟、Aさんの叔父の妻、その長男の4人である。

この4人で話し合った結果、問題なくAさんが相続することになり、「遺産分割協議書」も完成するに至った。

名義変更の2つの壁

Aさんの場合は、土地の相続人が4人で、しかも面識がある人なので、比較的スムーズに話し合いができた例である。しかし、世の中には、3代、4代前のご先祖の名義のままになっている土地も珍しくないのである。

考えられる原因は2つある。

1つは土地の名義変更の期限がないという点である。相続の場合、相続放棄は自分が相続人だとわかって3ヶ月以内、相続税の申告は相続開始後10カ月以内と決められている。しかし、土地の名義変更については、時に期限は設けられていない。

もう1つは名義変更には費用がかかるという点である。司法書士に依頼する場合には、報酬が発生するし、仮に自分たちで手続きを行うおうとしても、法務局に「登録免許税」を納付しないといけない。

相続の場合、「登録免許税」は土地の価格の1000分の4、つまり0.4%である。例えば、2000万円の土地ならば、「2000×0.004=80(万円)」となる。ただ名義を変えるだけなのに結構な負担といえる。

主にこの2つの理由で、土地の名義変更が進んでいないのである。ただ、3代前、4代前の名義変更を放置していると、法定相続人の数は、10人、20人になってしまう可能性がある。そうなると、名義変更手続きはかなりの作業になってしまう。

やはり、他の財産の相続手続きと併せて、土地の名義変更を行っておくべきである。そうしておかないと、自分の子や孫に大きな負担をかけることになる。(井上通夫、行政書士)