要旨
- 少し前から、不動産をはじめとした消費市場で「パワーカップル」(購買力のある共働き夫婦)をいう言葉を耳にする。本稿と次稿では、今後、増えゆく共働き世帯の消費を捉える一助として、「パワーカップル」世帯の動向を捉える。第一弾の本稿では、「パワーカップル」世帯数を確認するとともに、夫が高年収世帯の妻の就業状況について見る。
- まず、全体の状況を概観すると、日本の総世帯4,995万世帯の年間平均所得は546万円である。2,000万円以上の世帯は1.3%、1,500~2,000万円未満は2.0%であり、これら高所得世帯は世帯主年齢50~60代の世帯で多く、南関東や大都市で多い。
- また、共働き世帯(夫婦ともに就業者の世帯)は1,389万世帯(全体の27.8%)であり、このうち夫婦ともに年収700万円超の世帯を「パワーカップル」とすると25万世帯(全体の0.5%、共働き世帯の1.8%)が該当する。「パワーカップル」は夫婦と子から成る核家族世帯が過半数を占め、近年じわりと増加傾向にある。
- 夫の年収別に妻の就業状況を見ると、年収400万円以上では妻の労働力率が下がり、依然として「ダグラス・有沢の法則」は成り立つ。一方で全体的に妻の労働力率が上昇しているため、夫が年収700万円超の比較的高収入でも妻が働く世帯は増えており、フルタイムで働く妻もやや増えている。
- 妻が高年収であるほど夫も高年収であることもあわせると、共働き世帯が増える中、夫婦(世帯)間の経済格差が広がる可能性もある。なお、夫が高年収でも働く妻が増えている背景には、女性の社会進出や「女性の活躍促進」政策の効果のほか、賃金減少による共働きで家計を支える必要が出ていること がある。
はじめに~2013年頃から注目の「パワーカップル」=購買力のある共働き夫婦
少し前から消費市場、特に住宅・不動産領域で「パワーカップル」という言葉を耳にする。購買力のある共働き夫婦という意味で、都心の高額マンション市場などを牽引しているようだ。
「パワーカップル」という言葉は、橘木俊詔・迫田さやか著「夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」(中公新書、2013年)をきっかけに使われ始めたようだが、利用者によって定義は様々だ。橘木氏らは、医師夫婦を代表に高学歴・高所得の夫婦を「パワーカップル」とし、低所得の「ウィークカップル」と対比している。一方で、そのほかのレポートや新聞記事などでは(得られるデータの制約もあるのだろうが)、共働きで「世帯年収2千万円前後」(1)などフローに注目したものものあれば、「平均金融資産2千万円以上・本人年収4百万円以上・世帯年収1千万円以上」などストックにも注目したものもある。また、単に「夫婦ともにフルタイム勤務」(2)とするものもある。さらに、政治家や事業家など影響力のある夫婦を指すこともあるようだ。
1億総活躍社会を目指し、「女性の活躍促進」も強く推し進められる中、ますます共働き夫婦は増えていく。また、住宅市場などを見ると、「パワーカップル」には個人消費の牽引役としての期待が寄せられる。一方で日本では、夫の収入が高いほど妻の就業率が下がるという「ダグラス・有沢の法則」が依然として成立するという指摘もある(3)。
よって、本稿と次稿の二回に渡り、今後、増えゆく共働き世帯の消費を捉える一助として、「パワーカップル」世帯の動向について捉えていく。まず、本稿では、「パワーカップル」世帯のボリューム(世帯数)を確認するとともに、夫が高年収の世帯における近年の妻の就業状況について見ていく。そして、次稿では、妻の収入に注目し、ライフステージや暮らし向き、居住形態など生活面の違いを見る。
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(1)「通信週評 『パワーカップル』を過信するなかれ」(日刊不動産経済通信、2016/11/7)、「通信週評 パワーカップルが高額帯をけん引」(日刊不動産経済通信、2016/8/22)、「マンション市況GW以降、やや変化か低水準の金利が後押し」(住宅新報、2016/6/21)、「活気づく“高級住宅”市場 Interview」(ハウジング・トリビュー、2015/7/24)など。
(2)「共働き経済圏、動く、時間節約消費、花盛り、60兆円市場、成長担う。」(日本経済新聞、2017/4/22)など。
(3)多田隼士「ダグラス・有沢の法則の変化とその要因」(財務省「ファイナンス」、2015/4)など。
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高所得世帯数、および「パワーカップル」世帯数
◆高所得世帯数~世帯所得2千万円超は1.3%(63.9万世帯)、50~60代や南関東、大都市で多い
まず、世帯の所得分布について全体像を把握したい。厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」によると、総世帯4,995万世帯の年間平均所得は546万円、中央値は428万円である。
高所得世帯について見ると、2,000万円以上は1.3%(63.9万世帯)、1,500~2,000万円未満は2.0%(98.9万世帯)、1,200~1,500万円未満は3.6%(182.3万世帯)であり(図表1)、この十年ほど、いずれも横ばいで推移している。
これらの高所得世帯は、人口に比例する部分も大きいが、世帯主の年齢が50~60代の世帯や南関東、大都市で多い。2,000万円以上の世帯は、年代別には50代(33.6%)、60代(25.0%)、70代(17.2%)の順に多く、65歳以上が42.2%を占める。地域別には南関東(36.7%)、東海(15.6%)、北関東(8.6%)の順で、大都市が35.2%を占める。
◆「パワーカップル」世帯数~妻が高年収ほど夫も高年収で夫婦間の経済格差の存在、夫婦共に年収700万円超は全体の0.5%・共働き世帯の1.8%(25万世帯)でじわり増加傾向
次に、共働き世帯の所得状況について見ていく。総務省「平成28年労働力調査」によると、共働き世帯(夫婦ともに就業者の世帯)は1,389万世帯であり、総世帯の27.8%を占める。
この共働き世帯について、妻の年収階級別に夫の年収階級の分布を見ると、妻が高年収であるほど夫も高年収の傾向がある(図表2)。橘木氏らの指摘にもある通り、高年収同士が夫婦となることで、夫婦(世帯)間の経済格差の存在が窺える。
冒頭で述べた通り、「パワーカップル」の定義は様々だが、例えば、夫婦の合計年収が2千万円前後・以上の世帯を「パワーカップル」とすると、11~22万世帯、全世帯の0.2~0.4%、共働き世帯の0.8~1.6%となる(図表3)。なお、前述の通り、年間所得2千万円以上の世帯は全体の1.3%であったため、このうち共働き世帯は1/3~1/6程度となる。また、「パワーカップル」を夫婦の合計年収1500万円前後・以上とすると、37~120万世帯(全体の0.7~2.4%、共働き世帯の2.7~8.7%)となる。「パワーカップル」の定義は悩むところだが、本稿では、夫も妻も同様に高い購買力を持つことや所得税の税率区分(年収695万円から税率が20%から23%へ上がる)などを考慮し夫婦ともに年収700万円以上の世帯を「パワーカップル」とすると、25万世帯(全体の0.5%、共働き世帯の1.8%)が該当する。なお、この「パワーカップル」世帯は、近年少しずつ増えており、夫婦と子から成る核家族世帯が過半数を占める(図表4)。
夫が高収入世帯の妻の就業状況~夫が高年収世帯でも妻の労働力率は上昇傾向
夫の年収別に妻の就業状況の違いを見ると、年収400万円以上では、夫の年収が高いほど妻の労働力率は下がっており、依然として「ダグラス・有沢の法則」は成立している(図表5)。
なお、妻の労働力率は、夫の収入によらず全体的に上昇傾向にあるため、夫が年収700万円超の高収入でも妻が働く世帯は増え、2013年から2016年にかけて258万世帯から285万世帯へと増加している。また、夫が高年収の世帯ではフルタイムで働く妻(週35時間以上就業の雇用者)も、やや増えている。夫の年収700万円超の世帯に占めるフルタイム妻の世帯は、同期間で16.9%から19.0%(76万世帯から89万世帯)へと増えており、うち3割弱が「パワーカップル」と見られる(4)。
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(4)夫の年収700万円超で妻が週35時間以上就業の世帯(89万世帯)に占める夫婦ともに年収700万円以上の世帯(25万世帯)
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おわりに~夫婦間経済格差拡大の可能性も
夫婦ともに年収700万円超の「パワーカップル」は共働き世帯の2%弱だが、近年、じわり増加傾向にある。なお、妻が高年収であるほど夫も高年収であること、また、近年、夫が高年収の世帯でも妻の労働力率が上昇していることから、共働き世帯が増える中、今後、さらに夫婦(世帯)間の経済格差が広がる可能性もある。
なお、夫が高年収世帯でも働く妻が増えている背景には、プラス要因として、女性の社会進出や近年の「女性の活躍促進」政策の効果が、マイナス要因として、大卒以上・正社員など比較的待遇の良い雇用者でも賃金が減少傾向にあるため共働きで家計を支える必要が出ていること(5)があげられる。
次稿では、共働き世帯の妻の収入に注目し、ライフステージをはじめとした生活面の違いを見る。
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(5)久我尚子「
求められる20~40代の経済基盤の安定化-経済格差と家族形成格差の固定化を防ぎ、消費活性化を促す
」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2017/5/17)
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久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部
主任研究員
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