北朝鮮が発射した弾道ミサイルが北海道上空を通過した。菅義偉官房長官は29日午前、首相官邸で臨時記者会見を行い、「わが国の安全保障にとって、これまでにない深刻かつ重大な脅威だ」と述べた。それにもかかわらず、市場の反応は鈍い。日経平均の下げ幅は100円にも満たなかった。TOPIXの下落率はわずかに0.15%、日経平均に換算すれば30円安にもならない。リスクに対する感度が鈍っているのではないか。

だが、あるひとが、「日本株=日本ではないので、仮に日本や日本人が呑気でも、日本株の反応が鈍いと云うことにはならない」と言っていたが、一理あるだろう。

今年初めて北朝鮮リスクが高まった4月、日経平均は18,335円まで下落したが、下げの起点を年度末の19,000円からと見れば600~700円幅の調整である。今回も下げの起点を20,000円からと見れば現時点で4月同様600~700円幅の調整をしていることになる。株価の水準は4月の調整局面より1,000円高いが、決算発表を受けて予想EPSが高まっており、当時よりも予想PERは低い。業績見合いの株価水準は4月よりも深くすでに調整しているということだ。

確かに現在の日本株はフェアバリュー(適正株価)であると思う。しかし、フェアバリューにあるということと、この先のダウンサイドがないかということは別である。フェアバリューにあっても、この先のリスクイベント次第でショック安することはいくらでもある。

昨日出演したモーニングサテライトで、株式相場の注目点として「リスクへの備え」と挙げた。番組エンディングの「経済視点」では「波乱の9月」とフリップに書いた。以下は、27日に更新した僕のブログ Dance With Market 「今週のマーケット展望/ジャクソンホールは終わったが...」からの引用である。

<北朝鮮に対する不安もくすぶる。26日にもまたミサイルと見られる飛翔体を発射した。北朝鮮は建国記念日にあたる9月9日に去年は核実験を行っている。9月9日に向けて緊張が徐々に高まるだろう。最大の不透明要因は米国の財政問題。新年度予算と債務上限引き上げが絡み合って政府閉鎖やデフォルトのリスクまで意識されている。9月5日に議会が再開されるが、議論の行方を市場は固唾を飲んで見守ることになる。9月7日にはECB理事会もある。そう考えると少なくとも9月上旬までは重要イベント目白押しで動けない相場が続くだろう。>

この前段では、31日のPCEデフレーターと週末の雇用統計の平均時給など米国のインフレ指標が鈍い結果となれば、利上げが一段と遠ざかりドル安円高となるリスクを指摘した。

日本の上場企業の業績は好調で、4-9月期の決算発表では上方修正が相次ぐ可能性が高い。だから押し目買いの好機であるとも言えるが、まだ早い。ここから買い下がるくらいの気持ちがあれば、何回にも分けて押したところを拾えばよいが、資金に限りがあるならまだ待ったほうがいいだろう。少なくとも9月が過ぎるまで危機は去らないと思う。米国の新年度予算と債務上限を巡る議会調整が難航するであろうことはかなりの確信度をもって指摘できる。

1週間ほど前に、米政治専門サイト「ポリティコ」は、米税制改革についてトランプ政権と議会共和党との調整が進んでいると報じた。共和党上院トップのマコネル院内総務やライアン下院議長など、実際の交渉に携わる中心人物が税制改革法案の成立や米債務上限の引き上げといった財政面の課題解決に前向きな見方を示したという。

ロイターも「下院とホワイトハウス、上院はこれまで数カ月にわたり話し合いを続けてきた。9月には法案がまとまっているだろう」というグローバー・ノーキスト氏の談話を報じている。ノーキスト氏は共和党の有力ロビイストで全米税制改革協議会代表。氏はムニューシン財務長官やゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長らいわゆる「ビッグシックス」と呼ばれる税制改革を主導する6要人と会談している。同氏によれば、ビッグシックスは今月末までに税制改革案の大枠を決めることを目指している。

同様の報道はフィナンシャル・タイムズにもあった。ゲーリー・コーン氏が税制改革に楽観的というものだ。

しかし、ここまでの報道をよく読めば、「課題解決に前向きな見方を示した」「税制改革案の大枠を決めることを目指している」「税制改革に楽観的」であり、要は「頑張ります」という精神論で、具体的な内容や進捗度は一切報じられていない。これはおそらく、人種差別問題で窮地に追い込まれたトランプ政権=ホワイトハウスの巻き返し策のひとつで、ウケの良い税制改革=減税の話をメディアに拡散させる戦術がとられたものだろう。

確かに「ビッグシックス」は税制改革を主導するリーダーである。しかし、決めるのは議会である。ことは簡単にはいかない。オバマケア代替法案の難航ぶりをみれば想像に難くない。

繰り返すが9月は米国の財政問題、欧米の金融政策の不透明感、そしてそこに北朝鮮を巡る不確実性が重なる。最悪のシナリオとしては日経平均が19,000円を割り込み、18,000円台半ばまで下落するということも想定される。

だが、いずれにせよ10月下旬から始まる好決算を受けて相場は戻るだろう。そのころには米国の財政問題も決着しているはずだ。リバウンドするかなり明確な材料があるので、押したところは絶好の買いの好機になる。ただし、本当の買い場は、相場全体が悲観論に覆われているときだ。今日みたいな不感症のような下げではない。本当のセリング・クライマックスは、例えば、米国連邦政府閉鎖、米国債の利払い不能=デフォルトの可能性などが取沙汰され、ドル安円高が加速し、日本株が投げ売られるような場面だ。ドル円で105円、日経平均19,000円割れから買い下がるイメージか。この秋に急落がある場合の下値は、ドル円で100円接近、日経平均18,000円台半ば程度だろう。いよいよ秋相場のスタートだが、今年最後にして最大の買い場が近づいていると思う。

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

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