日本の年金は大丈夫なのかと心配になるものの、よく分からないというのが世間一般の意見だろう。経済学者で保険数理の専門家である著者が年金の正しい知識について分かりやすく解説している。

『「年金問題」は嘘ばかり ダマされて損をしないための必須知識 』
著者:髙橋洋一
出版社:PHP研究所
発売日:2017年3月15日

年金は保険である

年金問題ウソばかり
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結論から言うと日本の年金は「きちんと制度運用していれば、大丈夫」である。なぜなら年金は保険だからだ。

保険の大まかな仕組みは健康保険で考えると理解しやすいだろう。健康保険は、加入者が毎月保険料を納めて、病気になった時は自己負担分と健康保険で支払い、病気にならなければ納めた分だけ損をする仕組みだ。また、適切な保険料と保障額支払いのリスク計算を高度な保険数理を使って、保険を維持できるように設計されている。年金もまさに保険であり、長生きした時のために掛ける保険とも言える。

加えて、年金は割とお得な金融商品で、受給開始から大体10年もらい続ければ元が取れるように設計されている。年金が当てにならないと保険料を滞納するのは、老後の事を考えるととても損な行動なのだ。

年金の賦課方式が安定している理由

年金制度への批判で、現行の賦課方式は現役世代から保険料を徴収し高齢世代に支給する仕組みのため、少子高齢化が進む日本ではいずれ破綻するという主張を耳にすることがある。

1961年に国民皆年金が開始された時に、すでに高齢だった世代からは十分な保険料が徴収できなかったため、バランスシートをある時点で区切ると債務超過となるのがその根拠となっている。

しかし、将来にわたって年金制度が続くことを前提としたバランスシートで見た場合には、資産と負債は一致しており債務超過はないと著者は主張する。長い目で見れば保険料をしっかり納めてきた世代で年金システムが運営されていくので、賦課方式は安定的に機能するという考えには目からウロコが落ちた。

とはいえ、高齢世代の負担が少ないことや給付額が実質的に減るマクロ経済スライドを年金カットだと捉えるなど不満を感じている人も少なくないと思われる。長い目で見れば賦課方式はインフレに強く安定していることを政府はアピールして、不信感を取り払うことも重要になってくるだろう。

社会保障を安定させるための必要条件は経済成長

制度面のほかに年金に多大な影響を与えるのが経済成長である。十分な経済成長があれば、年金保険料の徴収額が増え積立金の運用利回りも高まるので、少子高齢化はゆっくり進むこともあり対応できるというのが政府のシナリオで、2014年の財政検証で想定として使った日本の経済成長率は名目GDP3.4%(物価上昇率2%、実質GDP成長率1.4%)だった。

著者はアベノミクスにより物価目標2%を達成すれば余裕だという。経済データを見ると、物価上昇率は不十分なものの実質GDP成長率は悪くないので、安倍政権後もアベノミクスが強化されて継承されるならば、私も著者の楽観予想に同意できる。

しかし、ポスト安倍と目される政治家は金融政策の重要性を理解しておらず、物価や経済成長に悪影響を及ぼす増税(緊縮財政)に熱心なように見えて、経済成長が低迷する悲観的なシナリオも捨てきれない。悲観シナリオだと、年金はおろか全ての社会保障は必要な税収が足りず破綻する可能性がある。そうならないためにも、政府・日銀には名目GDP3~4%の成長を達成するようなマクロ経済運営に徹してもらいたいと強く願う。

本書を読むことで歳入庁の重要性や「税と社会保障の一体改革」の名の下に消費税を上げようとすることの間違いなど、年金にまつわる様々な議論についても理解が深められる1冊となるだろう。(書評ライター 池内雄一)