古今東西、意思決定の失敗により盤石だった大企業が衰退したり社会に多大な損害を発生させたりする事例に事欠かない。人気の経済評論家であり自ら会社経営も行う著者が組織マネジメントの失敗の本質について明らかにしている。

『日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病』
著者:上念司
出版社:PHP研究所
発売日:2017年6月1日

組織に危機をもたらす「高学歴社員」

日本経済を滅ぼす「高学歴社員」という病
(画像=Webサイトより)

数ある組織マネジメントの失敗を考察した結果、それを引き起こす人物の特徴を著者は「高学歴社員」と名付けている。もちろん高学歴な人全てを批判している訳ではない。「高学歴社員」の定義について、5つの特徴を提示している。詳細は本書に譲るが、分かりやすく言えば、責任を取らず自己保身に走る人だと言える。

「高学歴社員」の失敗で愕然とさせられるのが、太平洋戦争のインパール作戦だ。戦死者3万人に達した無謀な作戦を推し進めたエリート達にとって大事だったものは、作戦の成功確率でも兵隊の命でもなくメンツや保身であったことがよく分かる。

そのほか特に印象に残った「高学歴社員」的な組織の例がかつての日本銀行だ。その日銀を長年に渡って批判し運営を改めるよう強く求めていたのが、著者を含むリフレ派と呼ばれるメンバーだった。

日銀を変えたトップダウンの改革

バブル崩壊後、日本経済はデフレの泥沼にハマり込み、海外の経済学者や日本のリフレ派は量的・質的金融緩和を行いデフレを克服するよう主張したが、日銀は小泉政権時の一定の期間を除き、積極的な金融緩和を断固として拒否した。自民党政権も金融政策に無理解で、財政政策のみでデフレ脱却させようとして過度な円高を招き失敗を続けていた。

その後、リフレ派のメンバーは民主党内に自分たちの主張を理解する議員もいることから、民主党政権に対して日銀を動かすように働きかけたが、失敗に終わった。政権の上層部は官僚や有力な円高論者の意見の方を採用し、一介の学者や経済評論家であるリフレ派の意見を一顧だにしなかったのだ。そして、第2次安倍政権のアベノミクスにより量的・質的金融緩和が実施された。

では、どのように日銀を動かしたかを考えてみると、首相が金融政策を理解し、デフレ脱却を実現できる専門家を日銀総裁や審議委員に任命した事だろう。シンプルだが、変更が困難だった日銀の金融政策を変えたトップダウンの改革だと言えるだろう。

首相の在任期間は有限なので、時が経てば元に戻る可能性は否定できない。日銀の「高学歴社員」化のインセンティブとなっていたと思われる日銀法の改正も重要だろう。なお、本書では「高学歴社員」化を助長する誤ったインセンティブ設計についても論じている。

改革を実行するために必要な事

日銀の事例はトップダウン型の改革だったが、すき家の改革はトップダウンとボトムアップの両方から行い成果を上げた事例だと言える。すき家といえば、以前ではブラック企業の代表のように言われていたが、改革によりホワイト企業として急速に生まれ変わったことには驚くばかりだ。

組織の改革は容易ではない。会社員であればそのようなことはせずに転職するという選択肢も有効かもしれないが、転職先が完璧な組織であるとは限らないし、多かれ少なかれ改革は必要としていると思われる。

組織に属して改革を行う場合には、まず現状の仕組みで周りから認められるような実績を出す必要があるという。そうでなければ、たとえ正論だとしても話をまともに聞いてもらえないからだ。そして、挫けずに成功するまで何度も続けることが大事だという。民主党政権への提言が採用されなかったこと、その提言が後に採用され改革が実現した経験から、著者が骨身にしみて実感し得た社会の真理なのだろう。

本書は所属する組織のマネジメントが失敗の法則に陥っていないか、またそのような状況にいる場合にどのように行動すべきかの判断について一助となるだろう。(書評ライター 池内雄一)

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