最近、マスコミからギグ・エコノミーやクラウドワーカーという言葉をよく耳にする。クラウドワークとは、インターネットのプラットフォームを通じて単発の仕事を依頼したり請け負ったりする働き方の形態を意味する。

こうした働き方や働く人の名称は統一されておらず、クラウドソーシング、シェアリングエコノミー、ヒューマンクラウド、デジタルワーク、ギグ・エコノミー、フリーランスなどの言葉が混在して使用されている。

一般的な労使関係の場合、決まった労働時間に働き、その対価で賃金や有給休暇、そして公的社会保険制度や法定外福利厚生制度が提供される。しかしながら、仕事の継続性がなく、定期的に仕事をする義務がないクラウドワーカーには既存の労働者に提供される上記のような保障が提供されず、収入などが安定していないケースが多い。ある意味では不安定労働だとも言える。

海外におけるクラウドワーカーの現状

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(写真=PIXTA)

アメリカ、フランス、イギリス、ドイツなどの先進諸国でもクラウドワーカーが増加しているものの、クラウドワーカーを把握するための公式的なデータはほぼなく、現在は民間企業・NPO団体や研究者などの調査結果に頼ってクラウドワーカーの実態を確認するしかない。また、利用できるデータも国によって異なり、一概に比較することは難しいのが現状である。

アメリカの非営利組織であるフリーランサーズ・ユニオンとクラウドソーシングサービスを運営しているアップワーク社による調査「Freelancing in America: 2016」によると、2016年時点のアメリカのフリーランス人口は5500万人にのぼる。働く人の35%がフリーランスで、2014年の調査と比べて200万人も増加した。また、調査では2020年には働く人の約50%がフリーランスとして働くと予想している。フリーランスと言えば、戦場カメラマンのような仕事を思い出す方が多いかも知れないが、近年は仕事の種類がブロガー、デザイナー、YouTuber、ITエンジニアなど、より多様な分野まで広がっている。また、最近のフリーランスは過去とは異なり、その多くがインターネット上のプラットフォームを通じて仕事を探している。つまり、フリーランスの増加はクラウドワーカーの増加にも繋がっていると言えるだろう。

ヨーロッパの場合、ハートフォードシャー大学のウルスラ・ヒューズ氏とサイモン・ジョイス氏が2016年2月に実施したインターネット調査の結果からイギリス、ドイツ、スウェーデンにおけるクラウドワーカーの現状を確認することができる。調査では、イギリスは11%、スウェーデンは12%、ドイツは14%の回答者が自分はクラウドワーカーであると答えており、特に34歳以下の若い年齢階層が高い割合を占めていた[図表1]。

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クラウドワーカーが増加しているにもかかわらず、クラウドワーカーの所得水準は改善されていない。例えば、イギリスにおけるクラウドワーカーの年間収入は42%が2万ポンド未満であった。これはイギリスの雇用者の平均年収2万7271ポンドを下回る水準である。また、ドイツにおけるクラウドワーカーの所得水準は3万6000ユーロ以下の人の割合が8割を超えていた。ドイツの雇用者の平均年収が4万7748ユーロであることを考えると、クラウドワーカーの多くが低収入で不安定な単純労働に直面していることがうかがえる。

さらに、クラウドワーカーの場合、業務にかかわる費用をすべて自費で負担しなければならず、手取りの所得水準はさらに低くなる可能性が高い。

日本におけるクラウドワーカーの現状

では、日本はどうだろうか。日本にはいくつかの調査があり、調査によりその定義や結果が異なっているが、本稿では紙面の制限もあるので、フリーランスやクラウドソーシングの現状のみを紹介したい。

まず、ランサーズ株式会社の「フリーランス実態調査2017年版」によると日本におけるフリーランスの数は2017年現在1122万人で労働力人口の17%を占めていた。これは1年前の調査に比べて5%も増加した数値である。

フリーランスの働き方は、常時雇用がベースだが副業でフリーランスの仕事をこなす「①副業系すきまワーカー」、雇用形態に関係なく、複数の企業の仕事をこなす「②複業系パラレルワーカー」、特定の勤務先はないが、独立したプロフェショナルである「③自由業系フリーワーカー」、個人事業主または法人経営者で経営しているオーナーである「④自営業系独立オーナー」という4つのタイプに区分される。この中から副業系すきまワーカーは458万人で2016年の416万人と比べて32万人も増加しており、その増加が目立っている。政府は働き方改革の一環として正社員の副業や兼業を後押しする方針を打ち出し、年度内を目標に企業が就業規則を定める際に参考に使用できる厚生労働省の「モデル就業規則」の副業・兼業禁止規定をなくし「原則禁止」から「原則容認」に転換する方針を決めており、今後、副業系すきまワーカーはさらに増加すると予想されている。

2017年時点のフリーランスの平均年収は、収入が最も多い「自営業系独立オーナー」でさえ350万円で、雇用者の平均給与420万円(国税庁「平成27年分民間給与実態統計調査結果」)を下回っているなど、フリーランスの多くが収入が安定していない状態で労働市場に参加している[図表2]。

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次は、日本におけるクラウドソーシングの現状を見てみよう。クラウドソーシングとは、在宅で仕事をするSOHOワーカーやそれに近い人たちなど、独立した存在で仕事を請ける専門家に業務を依頼するプロセスであり、日本では2012年頃からクラウドソーシングの利用が急増している。矢野経済研究所は、日本におけるクラウドソーシングの市場規模は、2011年の44億円から急速に成長し、2017年度には1350億円に、2020年には2950億円に増加すると推計している[図表3]。

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現在、日本でクラウドソーシングを提供している主要事業者への「登録企業数」は数十万社に至っている。中小企業庁の『2014年版中小企業白書』によると、常用従業員5人以下の企業の中で、クラウドソーシングサイトに発注した経験がある企業の割合は約7割に達していた。クラウドソーシングを利用したクラウドワーカーの仕事の内容はデータの入力といった単純作業にとどまらず、人工知能(AI)の開発支援など、多様な分野まで広がっており、今後さらに増加することが予想されている。

今後の課題や対応

オンラインプラットフォームは、比較的最近に登場したため、仲介事業者またはエンドユーザーがクラウドワーカーなどの権利を保護してくれるメカニズムがまだ確立されていない。最近はオンラインプラットフォームが一国のみならずいくつかの国にわたり、事業を展開するケースもあり、トラブルが発生した際にどの国の法律を適用すべきかなどが問題視される恐れも高い。

クラウドワーカーの類型は多様であり、その範囲も膨大であるので、高度な仕事を求める専門的な業務が存在する一方、お使いのような単純な業務も存在する。クラウドワーカーという働き方で労働市場に参加している大多数の人は経済的に劣悪な立場におかれているのが現状である。現在、アメリカやヨーロッパではクラウドワーカーの社会的・経済的地位に関する議論が活発に行われるなど、クラウドワーカーの処遇水準を改善させるための動きが少しずつ広がっている。

日本では今後同一労働同一賃金が推進されることにより非正規労働者の処遇水準は今より改善されることが予想されるものの、増加するクラウドワーカーに対する対策はまだ行われていない。労働基準法などが適用されず法的に保護されない彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。これを防ぐためにはまず、クラウドワーカーの実態を正確に把握する必要があり、それは政府の主導で行われるのが望ましい。また、非正規労働者のみならずクラウドワーカーの処遇水準の改善のための対策も同時に講じるべきである。現在、実施している家内労働者などに対する特例を拡大・適用することも一つの対案になるだろう。今後日本の政策立案者や研究者がアメリカやヨーロッパなどの事例を参考に、クラウドワーカーに対する対策により早く取り組むことを望みたい。

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

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