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景気の現状判断DI(季節調整値):天候要因が下押しも、前月から横ばい

9月8日に内閣府から公表された2017年8月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は49.7と前月から横ばいとなった。家計関連が悪化したものの、企業関連、雇用関連は改善し、全体では横ばいとなった。なお、内閣府は、基調判断を「持ち直しが続いている」に据え置いた。

今回の調査では、家計関連は、長雨の影響で東日本を中心に来客数が伸び悩み、小売やレジャー施設関連の景況感を押し下げた。また、住宅関連でも、消費者が購入に慎重な姿勢をみせている。ただし、百貨店は富裕層や訪日外国人の消費活動が活発のようだ。企業関連では、製造業で引き続き受注が好調に推移している。また、雇用関連では、人材を確保するため、正社員の求人数も増えてきている。

天候不順が景況感を下押し

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、企業動向関連(前月差+0.9ポイント)、雇用関連(同+0.6ポイント)は改善したが、家計動向関連(▲0.3ポイント)が悪化した。家計動向関連では、飲食関連(前月差+2.9ポイント)が大きく改善したが、小売関連(同▲0.2ポイント)、サービス関連(同▲1.2ポイント)、住宅関連(同▲1.0ポイント)が悪化した。

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コメントをみると、 家計動向関連 では「気候変動の影響により、大雨やゲリラ豪雨、雷雨などの天候不順があり、非常に見通しのつかない状況が続いているため、予約が日延べやキャンセルになっている」(南関東・旅行代理店)や、「7月とは一転して曇天が続き、予想に反して夏は不発に終わっている。そのため、アイスやソフトドリンクなどの売上が伸びず、来客数も増えていない」(東北・コンビニ)など、東日本を中心に、長雨の影響によって来客数が伸び悩んだというコメントが多かった。一方で、「西日本は雨が少なく、蒸し暑い猛暑日が続いている影響で、飲料、アイス、生鮮品などが売上に貢献している。根本的に大きな変化はない」(近畿・コンビニ)など西日本では猛暑が続き盛夏商材の売れ行きが好調だったようだ。また、「お盆の日並びが良かったこともあり、来客数は例年より多く、イベント等でも売上を伸ばしている。インバウンドの好調が続いていることもあり、全体としても好調を維持している」(東海・百貨店)など百貨店を中心にインバウンド需要は引き続き好調のようだ。一方で、「原材料が上がっていても、最終的な販売単価をあげると売行きが大きく減少してしまう。小売業としては、原材料費や人件費の上昇を商品単価に上乗せしにくい状況にあり、客の価格志向はかなり厳しくなりつつある」(九州・スーパー)など、消費者の節約傾向が強まっているというコメントもみられた。

住宅関連 では、「見学会などイベントには積極的に参加するものの、契約には慎重な判断をする客が増えており、営業活動が長期化している」(中国・住宅販売会社)や「来客数はあまり変わらないが、客の予算が少し減ってきており、高額な物件の成約率が低くなってきている」(北海道・住宅販売会社)など前月から引き続き住宅の購入に慎重な消費者が増えているようだ。

企業動向関連 では、製造業(前月差+2.3ポイント)が大きく改善した一方、非製造業(同▲0.2ポイント)は小幅ながら悪化した。コメントをみると、「自動車関連を中心に荷動きが活発で、特にハイブリッド車や電気自動車関連が増産傾向にある。それ以外でも、日本から供給している部品は好調である」(近畿・金属製品製造業)や「前月に引き続き、産業機器、電子材、工具鋼分野で堅調な受注が継続している」(中国・鉄鋼業)など製造業では幅広い業種で受注が好調のようだ。一方で、「新素材の使用や品質基準の高まりに伴って製造コストが急上昇している。また、特殊商品の増加が製造コスト上昇の一因となっているが、販売価格は据置きが多く、人件費など経費上昇が続いている」(中国・その他製造業[スポーツ用品])など人件費や原材料費の上昇を販売価格に転嫁できないというコメントもみられた。

雇用関連 では、「幅広い企業から技術系、営業、経理、財務など様々な求人が常時ある。従来の50歳までから、職種によっては定年退職後の人材の求人も出るようになってきている」(南関東・民間職業紹介機関)など、幅広い職種と年齢層で人材を募集しているようだ。また、「アルバイト、パートの求人が前年並みとなっている一方で、正社員の求人の増加が目立つようになってきている。アルバイトを採用しづらくなってきていることで、小売や飲食などでの正社員求人も増えてきている」(北海道・求人情報誌製作会社)や、「新規求人数は、ほぼ全産業で増加傾向が続き、特に正社員求人が増えている。特徴としては、製造業では機械、電機関連が増加し、卸売、小売業では正社員求人の増加が目立っている」(近畿・職業安定所)など、正社員の求人数も増加傾向にあるようだ。

景気の先行き判断DI(季節調整値):3ヵ月連続で節目となる50を上回る。

先行き判断DI(季節調整値)は51.1(前月差+0.8ポイント)と2ヵ月ぶりに改善した。先行きの景況感は2017年度に入り持ち直しており、3ヵ月連続で節目となる50の水準を上回っている。先行き判断DIの内訳をみると、雇用関連(前月差▲2.6ポイント)が大きく悪化したが、家計動向関連(同+1.3ポイント)、企業動向関連(同+0.9ポイント)は改善した。家計動向関連は節目となる50を6ヵ月ぶりに上回り、これで家計・企業・雇用関連の全分野が50に達した。

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家計動向関連 では、「インバウンド売上の増加が続くことで、12月ごろまでは店の売上も増収が期待できる。また、国内の富裕層である外商顧客の売上も前年を上回っており、この2~3か月は好調が続く見通しである」(近畿・百貨店)など引き続きインバウンド需要に期待するコメントがみられた。一方で、「資材や材料の価格が上がり続けている。天候も不安定で夏以降の野菜の価格高騰も懸念される。また、じわじわと物の値上がりが続くなかで、消費者の給料が上がるわけでもないことから、生活が苦しくなり、消費もますます落ち込むことが懸念される。景気が上向くような材料は1つもないため、今後も変わらないまま推移する」(北海道・高級レストラン)など、物価が上昇していく中、消費者が節約志向を強めることを懸念するコメントがみられた。

企業動向関連 では、「受注量、販売量はある程度確保しているが、原材料が値上がりしても製品価格への転嫁がかなり難しく、収益面で苦戦する」(東海・パルプ・紙・紙加工品製造業)など、売上の増加は見込めるが、収益を確保するのは厳しいとするコメントがみられた。一方で、「スクラップ価格が高騰しているが、それに伴い販売価格も改善してきており、今後も価格は上昇する見込みである。建築物件のみならず土木物件も動き出し受注量も回復してきた」(九州・鉄鋼業)など、売上増加に伴って収益を上げている企業もみられる。

雇用関連 では、「求職者の減少傾向が続いていることから人手不足感が一層強まっており、少しでも応募者を増やしたいと、業種を問わず契約社員から正社員に切替えて募集する企業が目立つ」(中国・職業安定所)など、人材を確保するため募集条件を見直す企業もみられるが、「求職者が減少しており、既存取引先への求人に対するマッチングが滞っている状況が続いているため、追加求人案件が減少傾向にある。新たに派遣活用を行う企業も一部出てきているが、全体的な求人数の減少は否めない。求人数が減少すると、新規登録者も集まりにくくなるため、悪循環となってしまう傾向があり、景気が悪くなる可能性が高い」(南関東・人材派遣会社)など、求人要件と求職者の希望がマッチングせず、求人をあきらめる企業も現れているようだ。

景況感は2017年度に入り、企業関連や雇用関連が牽引して持ち直しの動きがみられる。企業の受注は好調を維持しており、人手不足が深刻化するなか人材確保に向けて求人条件を見直すなど雇用所得環境の改善が一段と期待できる。家計関連についても、天候要因に左右される展開が続いているが、先行きについては着実に改善してきている。

2017年度に入り、北朝鮮情勢が緊迫化しているが、これまで景況感の大きな下押し材料にはならなかった。しかし、8月末に北朝鮮が発射した弾道ミサイルが日本上空を通過するなど、ここにきて情勢は一段と緊迫化している。金融市場にも不安定な動きがみられ、今後景況感にも影響が出る可能性があろう。

白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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