ウォーレン・バフェットの右腕と言われるチャーリー・マンガーは、「間違って価格付けされた賭け(ギャンブル)を探すこと。それが投資だ」と述べている。株価がその企業の長期的な成長性と同調していないのなら、ギャンブルでいうと賭け率が間違っているのと同じである。(デビッド・クラーク著『マンガーの投資術』)
同書によれば、マンガーは若い頃ポーカーをしながら投資の腕を磨いたという。勝算が低いときは手控え、自分に有利とみるや大きく賭ける戦略を学んだのはポーカーを通じてであったそうだ。その賭け方は、極めて理にかなっている。僕も以前から日本人初のプロ・ポーカー・プレーヤー、木原直哉氏の著書、『東大卒ポーカー王者が教える勝つための確率思考』という本で、その考え方を紹介してきた。「勝算」をはじく基準となるのが「期待値」である。木原さんのギャンブルの定義は、「期待値がマイナスなものにおカネを賭けること」だ。
マンガーの上記の言葉は投資に関して(だから当然、長期投資に関して)のものであるが、短期のトレーディングにも当てはまる。ジャック・D・シュワッガー著『新マーケットの魔術師』に登場する常勝トレーダー、ビクター・スペランチオも同じ意味のことを述べている。
「ギャンブルは、勝算がない時にリスクを取ることです。例えば、宝くじを買ったりスロット・マシーンなどはギャンブルです。トレーディングやポーカーで成功するには、ギャンブルではなく、投機が関連してくるのです。投機に成功するとは、勝算がある時にリスクを取るということです。ポーカーでは、どの手に賭けなければならないかを知らなければなりません。同様に、トレーディングでは、いつ勝算があるのかを知らなければならないのです」
いつ勝算があるのかを教えよう。「間違って価格付けされた賭け」のチャンスがやってきた。歪んだオッズのギャンブル、プラスの期待値の賭け、なんとでも言い換えられるが、要するに、勝算が高い賭けがある。リスクを取る時だ。
今週末に発表される米国の雇用統計は、ハリケーンの影響で雇用者数が伸び悩むと予想されている。低い数値が出れば相場にとって悪材料ではないか?そうではない。要は市場の織り込み度合いとの兼ね合いである。
今回はハリケーンの影響で「悪い数字」になるのは織り込み済み。だから、実際に「悪い数字」が出ても市場の反応は限られる。その「悪い数字」の範囲には、市場予想を下回る数字も含まれるだろう。そうすると、もともと弱い数字を見込んでいる市場予想通りの結果になる場合も、その市場予想をさらに下回る場合も、どちらにせよ「ハリケーンの影響だから仕方ないよね」で片づけられて、米国株やドルが売られる展開にはならないだろうと思われる。
ところが逆に、市場予想を上回る数字が出れば、「ハリケーンがあったのに強い」というポジティブ・サプライズとなってリスクオン地合いとなるだろう。
つまり、今度の米雇用統計は、アップサイドはあるがダウンサイドはないという、オッズが歪んだ「おいしい」賭けである。
3年半前の2014年2月7日に発表された同年1月の雇用統計ではノンファームペイロールは17万人増の予想に対して11万増と大幅に下振れた。しかし、もともと寒波の影響があることは織り込まれていた。「下振れは予想の範囲内」との認識が広がりNYダウ平均は165ドル高となったのだった。その直前に「雇用統計に賭けろ」というレポートを書いたが、今日ここで披露したのとまったく同じロジックに基づいての推奨だった。
月曜朝に配信している「今週のマーケット展望」ではこう述べた。
<良好な指標が追い風となって、米国株の史上最高値更新が続くだろう。特に注目は2日に発表される9月のISM製造業景況指数。8月は58.8と上昇し、2011年4月以来の高水準を記録した。フィラデルフィア連銀の製造業景況指数やシカゴPMIなど先行指標が軒並みポジティブ・サプライズとなっていることから製造業の景況感は改善しており、ISMもハリケーンの影響が軽微となる公算が高い。強い数字が出れば米金利上昇、ドル高円安となって日本株にも追い風となる>
想定通りの展開である。雇用統計も予想に反して堅調な数字となるのではないかと思う。
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券
チーフ・ストラテジスト
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