ベーシックインカム(BI、基礎的所得)とは、全国民に最低限度の健康で文化的な生活を保障するための所得を給付する制度である。近年、貧困や格差の拡大を緩和するとして注目が高まっており、実際に導入を検討したり、実験的に実施したりする段階に来ている。経済学者で数量分析を得意とする著者が、ベーシックインカムの効果や実施可能性について論じている。

ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか

著者:原田泰
出版社:中央公論新社
発売日:2015年2月24日

貧困はお金を配れば解決する

ベーシックインカム
(画像=Webサイトより)

著者の貧困の解決方法は明快だ。貧困とはお金が無い事だから、お金を配れば良いというものだ。日本の貧困問題は、貧しい状態にあるにもかかわらずお金を受け取れていない人が多いことである。

国際比較を行うと、一人当たりの公的扶助給付額は主要先進国の中で日本は際立って高く、公的扶助を実際に与えられている人は少ない。それを裏付けるように、日本で生活保護水準以下の所得で暮らしている人は人口の13%との推計がある一方で、実際に生活保護を受けている人は2006年で人口の1.2%であるというデータには驚かされる。

また、日本は相対貧困率が高い。相対貧困率とは、所得の順に並べて中央に位置する人の所得(中位所得)の半分以下の所得となる人の比率で、不平等や貧しい人の多い少ないを示す指標である。本書では1990年代央や2000年のデータで、先進14か国のうちワースト3に入る結果を示している。日本の貧困の本質は貧しい人が多いことであり、日本の失業率が世界的に見て低いことから、ワーキングプアが多いことも問題だ。

2017年6月27日に厚生労働省が公表した『平成28年 国民生活基礎調査の概況』にある相対貧困率を見ると、2000年が15.3%、2015年が15.6%となっている。既存の政策では日本の貧困を減らせていない。ベーシックインカムを実施すれば、生活保護が受けられない貧しい人の所得が増え、貧困が減るのではと思えてくる。

月額7万円の給付であれば実施可能か

ただ、ベーシックインカムの実施には膨大な予算が必要だという批判があり、それが未だ国民的議論に発展していない原因と考えられる。本書の素晴らしいところは、どれほどの予算が必要でどのように財源を確保すれば良いかを定量的に明示している点だ。なお、この試算では基礎年金と失業保険を代替するベーシックインカムを想定しており、医療保険制度については別の本が必要になるほど議論が煩雑になるため現行のままとしている。

試算の概要は、大人に7万円、子供に3万円の月額給付にかかる費用が96.3兆円、税率を30%に固定し得られる税収が77.3兆円で差額の19兆円と現行の所得税収13.9兆円を合わせた32.9兆円が実現に必要な予算規模となる。

老齢基礎年金、子ども手当、雇用保険にかかる費用を廃止すると19.9兆円削減でき、残る13兆円を各種政府予算の無駄を削り代替財源として見積もり、財政的に十分成立するとしている。個人の税については、700万円から800万円の所得階層から、ベーシックインカムの給付を納税額が上回る試算結果となっている。

試算と現行の生活保護の給付額とを比べると、都市部とは乖離があるが、町村部とは同額に近く、極端に低くなるわけではないようだ。財源の問題を考えると大人への給付額は月額7万円が現時点での上限に近いように思われる。