意外と知らない「疲労のメカニズム」とは?

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(写真=The 21 online)

加齢とともに起こる身体の不調を「仕方ない」と諦めていませんか。身体の仕組みを知って、適切な生活習慣を心がければ、その不調は改善されるはず。そこで、日々の生活のうえで改善するべきポイントを、医師の西脇俊二氏にうかがった。

なんとなくだるい」はなぜ起こる?

とくに思い当たる理由がないのに、「なんとなくだるい」と感じることが増えた……。年齢を重ねると、そんな身体の不調に悩まされる人が多くなります。

40代頃から不調が増える原因の一つは、加齢により基礎代謝が落ちることです。基礎代謝とは、何もせずじっとしていても消費される、生命維持の活動のために使われるエネルギーのことで、この基礎代謝の量は筋肉の量で決まります。

筋肉は、心臓をはじめとする、生きるうえで必要な活動を支える組織であり、体内で最も多くの熱を生み出している“熱発生装置”でもあります。

ところが、加齢により筋肉の量が減ると、体内で熱が生産されにくくなります。すると、身体が冷えやすくなって、基礎代謝が落ちていきます。

基礎代謝が落ちると、消化力も低下します。「消化力」というと、胃腸の働きに関することだけを思い浮かべるかもしれませんが、私のクリニックでは「消化=消化・吸収・代謝」という一連の流れで捉えています。

ですから、基礎代謝が落ちれば消化・吸収する力も弱まり、身体に必要なホルモンがうまく生成されなくなります。その結果、自律神経のバランスが崩れ、身体のあちこちに不調が表われるのです。

また、免疫力の低下も、不調との大きな関係があります。

免疫力が上がるのは、副交感神経が優位になり、リラックスした状態のときです。反対に、交感神経が優位になり、緊張やストレスを感じている状態のときは、免疫力が下がります。

ですから、仕事が忙しく、ストレスの多い立場にいる管理職世代は、免疫力が下がりがち。それが「なんとなくだるい」につながっているのです。

なお、ストレスを感じやすい人は、「情報の消化力」も低下しています。これは私が作った言葉ですが、要するに「外から入ってくる情報を処理して、精神面に影響しないようにする力」だと思ってください。

身体の消化力と情報の消化力は、密接につながっています。

嫌みや叱責、批判といった、ネガティブで不適切な情報を浴び続けると、胃が痛くなって食欲が落ちる。そんな経験をしたことがある人も多いでしょう。良くない情報を取り込みすぎると、情報の消化力が低下し、それとリンクして身体の消化力も低下するという悪循環に陥ります。職場や家庭でこの手の不適切な情報にさらされている人は、ストレス耐性が下がって、免疫力も低下しやすいので要注意です。

老廃物を排出するコツは「動く」こと

では、そもそも「だるさ」とは、どのように引き起こされるものなのでしょうか。

だるさを感じる原因は、主に2つあります。

1つ目は、老廃物が排出されず、身体の中に蓄積されてしまうことです。

老廃物が溜まると、身体にさまざまな悪影響を及ぼします。たとえば、乳酸が体内に溜まれば筋肉痛になりますし、尿酸が溜まれば通風や結石などの原因になります。老廃物のスムーズな排出は、健康を保つために大変重要です。

ところが、老廃物を運ぶリンパ管には、ポンプ機能がありません。血管には心臓というポンプがあるので、寝ている間も全身に血液が巡ります。しかしリンパ管には、リンパ液を送り出す装置がついていないのです。

では、どうすればリンパ液が流れ、老廃物が溜まらないのかというと、全身運動で筋肉を動かすことです。

しかし、多くの人は、仕事で疲れたからといって、休日は身体を動かさずにゴロゴロして過ごします。それではますますリンパ液の流れが滞り、「休んだはずなのに、だるさが取れない」ということになります。つまり、「だるいから運動しない」というのは、逆効果なのです。

運動不足が「消化力」を低下させる

また、運動不足は消化力も低下させます。

先ほどお話ししたとおり、筋肉が減れば基礎代謝が低下します。筋肉量は20歳頃をピークに減少しますが、身体を動かさなければ、減り方はさらに加速します。消化力も基礎代謝も落ちれば、内臓が正常に機能しなくなり、食べ物をきちんと「消化・吸収・代謝」できなくなるのです。

それでなくても、現代人はどんどん身体を動かさなくなっています。移動は電車やクルマばかりで歩く時間はほんのわずか。仕事でも1日中パソコンに向かって手を動かしているだけ。そんな人も多いはずです。

しかし人間の身体は、動かして生活することを前提に作られています。ですから、いくら便利な時代になったとはいえ、意識して身体を動かさなければ、全身の機能が正常に働かなくなって当然。機械と同じで、人間の身体も動かさなければさびついてしまいます。

かといって、身体を酷使するのも問題です。これまでまったく身体を動かさなかった人が、一念発起のつもりでいきなりフルマラソンを走ったら、それこそ身体はボロボロになってしまいます。身体を動かすことが大事とはいえ、何ごとも適切な量というものがあることを理解してください。

達成感が「だるさ」を吹き飛ばす!

だるさを感じるもう一つの原因は、脳内伝達物質の不足です。中でもドーパミン系のアドレナリンやセロトニンが不足すると、意欲が低下したり、集中できなくなったりします。

脳内伝達物質が不足する大きな原因は、原料となるタンパク質の不足です。また、タンパク質をアドレナリンやセロトニンに代謝するのに必要な酵素も足りていない人がほとんどです。タンパク質を代謝するために使う酵素は、ビタミンCやビタミンB?、亜鉛、鉄などですが、偏った食生活をしていると、なかなか十分な量を摂取することはできません。

アドレナリンやセロトニンが不足する原因は、食事だけではありません。実は「達成感不足」も、その引き金になります。「やった!」という快感や喜びを味わうと、脳内でドーパミン系物質やセロトニンの放出が促進されます。ですから、毎日のように達成感を味わっていれば、だるさを感じることもありません。

逆に、達成感のないまま何かを続けていると、身体はどんどんだるくなります。「上司や顧客に言われるまま、やりたくもない仕事を嫌々やっている」という人は、それが不調につながっている可能性が高いので要注意です。

さらに、睡眠の質が悪いことも、だるさの原因となります。

忙しいビジネスマンなら、睡眠の時間が短くなりがちなのはある程度仕方がないことですが、しっかり寝ているはずなのにだるさが解消されない場合は、睡眠の時間ではなく質に問題があると考えてください。

日中の不安や緊張が強いと眠っている間も交感神経優位な状態となり、眠りが浅く、免疫力も低下し、身体の不調を感じやすくなります。

このように、だるさを引き起こすメカニズムは、実は非常にシンプル。リンパ液の流れを促して老廃物を排出しやすくし、ドーパミン系の脳内物質を増やすような生活と質の良い睡眠を心がければ、だるさは解消できるわけです。

「なんとなくだるい」を解消するには、日常の暮らしを少し変えること。「有酸素運動に適した脈拍で走る」「休日にゴロゴロしない」「自分に達成感を与える」「良質なたんぱく質を摂る」「睡眠の質を上げるために、夜は光を遮断し朝は光を浴びる」など、自分ができそうなことを毎日の生活に取り入れて、「なんとなくだるい」を解消してください。

西脇俊二(にしわき・しゅんじ)精神科医/ハタイクリニック院長
弘前大学医学部卒業。1991年、国立国際医療センター勤務、国立秩父学園医務課医長などを経て、2009年にハタイクリニックを開業。専門は、がん、代替医療、精神療法。テレビドラマ医事監修として、『相棒』『ATARU 』などを担当。メディア出演や雑誌への寄稿も多数。著書に、『免疫力UP 自律神経を整える 基礎代謝が高まる! 消化力』(ワニブックス)など。(取材・構成:塚田有香み)(『 The 21 online 』2017年9月号より)

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