サラリーマンとして会社に勤めている人なら、仕事上の定年はいずれ到来する。その後の人生をどのように充実して過ごすか。日本人の寿命が伸びているいま、どう対処すればよいのかという不安を持つ人が多くいても不思議ではない。
あらゆる分野で先行きが不透明な時代に、何か指南本を求めたいと思う人もいるだろう。そうした人の心をとらえているのが中公新書の『定年後』である。
『定年後』
著者 : 楠木新
出版社 : 中央公論新社
発売日 : 2017年4月25日
定年後、サラリーマンは「行き場」がなくなる
著者の楠木新氏は、サラリーマンの生き方や働く意味をテーマに取材、執筆活動に取り組むキャリアコンサルタントである。著書に『人事部は見ている。』『経理部は見ている。』(ともに日経プレミア新書)、『左遷論』(中公新書)などがある。
『定年後』は今年4月の発売以来、9月末現在でこれまで約22万部突破したベストセラーである。主に40代から60代前半の年代層を中心に幅広く読まれているというこの本は、楠木さん自身の経験がもとになっている部分も含まれる。
大手生命保険会社に勤めていた楠木さんは、47歳で会社生活に行き詰まり、体調を崩して長期休職した経験がある。急に会社に行かなくなると、書店と図書館とスーパー銭湯以外に足を運ぶところがなく、自分がいかに会社にぶらさがっていたかを感じた――と本書で心情を吐露している。定年後の人生を「予行演習」したことで、定年後の生き方に興味をもち、いろいろな人に話を聞いたことが本書の出発点になっている。
定年後の心配の本質は、組織を離れてしまうと仕事や仲間を失って孤立しかねないという孤独感である。会社一辺倒の人生を送っている傾向が強い日本のサラリーマンにとって会社という「行き場」がなくなるという喪失感が何より大きいのである。それは多くの人が共感するところであろう。