2017年時点で、アベノミクスの大規模な金融緩和について雇用増や株高などを評価できる一方で、日銀が掲げるインフレ目標2%はゴールから程遠いという課題もある。
本書は金融政策をより機能させるため、また、「失われた20年」を繰り返さないための方法としてヘリコプターマネー政策を主張し、それに関連した新しい経済システムを模索している。『人工知能と経済の未来』がロングセラーとなった著者による経済学界に一石を投じる意欲的な一冊だ。
『
ヘリコプターマネー
』
著者:井上智洋
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2016年11月25日
デフレの克服にはマネーストックの増加が必要
著者は「失われた20年」の原因を潜在GDP(総供給)に対する総需要の不足であったと主張する。これは1992年から2010年までの潜在GDPと長期トレンド(実際のGDPの推移)の乖離(GDPギャップ)が平均でマイナス2%だったことからも明らかだ。
不足している総需要を満たすために必要な政策は金融・財政政策で、これによりマネーストック(世の中に出回るお金)が増えることで、GDPギャップが埋まり、景気が回復してデフレを克服できる。
「失われた20年」の時期や現在でも、日本のデフレは少子高齢化といった構造問題で構造改革や生産性向上を進めよという主張を聞くことが多いが、それは大間違いだ。このような政策は潜在GDPを高めるものであり、それ自体は非常に重要な取り組みだが、デフレの処方箋とはならない。それどころか総需要の増加が無ければGDPギャップが広がるので、デフレを深化させることにもつながる。
上記の主張に蓋然性があることはアベノミクスの成果からも見て取れる。ただし、著者はまだまだ不十分であり、よりマネーストックを増加させる必要があるという。そのための方法がヘリコプターマネーという大胆なアイデアである。