昨年春、パナマの法律事務所によって作成されたとされる約1150万件にもおよぶ膨大な公的機関・企業・富裕層の租税回避に関する情報が一般に公開された。これら「パナマ文書」と呼ばれる文書は、国際調査報道ジャーナリスト連合によって分析が試みられた。そして、最終的にその内容は世間を騒がせることになった。
パナマ文書には企業や政治家、企業経営者の名前も見え、日本の法人や個人名も記載されていた。そのため、租税回避を狙っていた(とされる)企業や個人は、国民から非難の対象になった。
タックスヘイブンを使って節税に励もうとすることは決して褒められた行為ではないにしろ、違法とまでは言えない。そもそもパナマ文書が明らかにしたのは一部の企業や個人でしかない。タックスヘイブンは、数ある租税回避術のひとつに過ぎない。
『富裕層のバレない脱税』
著者:佐藤弘幸
出版社:NHK出版新書
発売日:2017年9月9日
マルサ以上に恐れられている「リョウチョウ」とは?
税負担を誤魔化そうとする行為は、海外のタックスヘイブンを利用するという大掛かりな租税回避術だけではない。むしろ、数の上では町工場などの中小企業や飲食業、風俗産業などが圧倒的だ。これらに共通するのは、現金商売なので記録が残りにくいことが挙げられる。
町工場などの中小企業は現金決済ではないが、脱税を試みる代表格として本書では取り上げられている。その理由は、毎日の資金繰りに苦しんでいることもさることながら、相続の問題が大きい。株式会社の株は相続税の対象になるが、一般的に中小企業の場合はそれらを売却することはかなり難しい。特に、家族・親族が経営陣に名を連ねるような同族経営の中小企業になればなおさらだ。
同族株式は「売れない」資産であるにも関わらず、相続税の対象になる。かなり厄介な資産だと言っていい。そうした同族株式の問題は、中小企業経営者にとって頭の痛い問題となっている。そのため、中小企業は名義株を使った脱税を試みるケースが多いという。
余談ではあるが、こうした同族株式の問題が中小企業の後継者不足を深刻化させる遠因でもある。
著者は、通称“リョウチョウ”と呼ばれる東京国税局調査資料課に長年勤務した経歴を持つ。最強の徴税チームというと、世間的には“マルサ”と呼ばれる国税局査察部のイメージが強い。“マルサ”は裁判所の令状で強制捜査をおこなう部署のために、そうしたイメージが定着した、一方、“リョウチョウ”は税務調査の最後の砦という位置づけにあり、業界内では“マルサ”以上に恐れられている。