本書は私たちの生活を進歩させるために乗り越えていく課題について書かれた書籍だ。たとえば起業家や管理職のような立場にあるなら、イノベーションに取り組んでいるときに「進歩」ということばはあまり意識しないかもしれない。機能性とメリットをいかに組み合わせて、顧客の目を惹きつける完璧な新商品をつくるか、あるいは、既存の自社製品の利益率をあげ、競合相手と差別化できるよう改良しつづけることに夢中かもしれない。おそらく、顧客が求めているものをわかっているつもりのはずだ。だが現実には、イノベーションが成功するかどうかは一か八かの色合いが強い。何が顧客にその行動をとらせたのかを真に理解していないかぎり、賭けに勝つ確率は低い。

だが、イノベーションとは本来、もっと予測可能で、もっと確実に利益をあげられていいはずだ。必要なのは、ものの見方を変えること。だいじなのはプログレス(進歩)であって、プロダクト(商品)ではない。本書は、イノベーションの競争に真に勝ち抜きたいと願う人にとってのバイブルとして位置づけられるだろう。

(本記事は、クレイトン・M・クリステンセン氏 他 著書『 ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ・ジャパン(2017年8月1日) の中から一部を抜粋・編集しています)

データ収集だけではイノベーションとはなり得ない

イノベーション,消費
(画像=Webサイトより)

年々進化する高機能ツールやテクニックを使いこなし、企業はかつてないほど潤沢な資源をイノベーションに投じているはずだ。しかも企業がいまほど顧客のことを知っている時代はなかった。ビッグデータ革命のおかげでデータ収集は多様性でも量でも速度でも、飛躍的な進歩を遂げた。集めたデータを分析するツールも高度化し、データの山から大きな宝を掘り当てようと日々さまざまな分析がおこなわれている。多くの企業ではイノベーションへの取り組みが体系化され、手順も決められていて、優秀で高いスキルをもった社員が投入されている。段階ごとの入口と出口が慎重に設定され、小刻みに検証が重ねられ、各段階でチェックとバランスが重視される。根拠をもとにリスクを計算し、あらかじめ軽減の措置がとられる。しかし多くの企業にとって、イノベーションはいまも運任せのところが大きい。いちばん問題なのは、なんらかの活動をすることで、本当は成果が出ていないのに進歩しているという幻想をもってしまう点だと著者はいう。

相関関係と因果関係の違いを理解し競合他社と差別化させる