今年に入り、中国の消費関連企業の日本進出が目立つ。ネットショッピングを展開する中国のアリババは、スマホ決済サービスを日本で展開する。民泊最大手の途家(トゥージア)は楽天と業務提携を行い、シェアバイクのモバイク(Mobike)は札幌市でサービスを開始する。
そうした中、日本経済新聞社は10月30日付の朝刊第1面で、中国企業によるタクシーサービスへの参入を報じている。タクシー配車と相乗りサービスで世界最大手の中国・滴滴出行(ディディチューシン)がタクシー国内最大手の第一交通産業と組み、2018年春にも東京都内で配車アプリを使ったサービスを始めると報じている。
これまでの中国企業の日本進出は、日本企業の持つ製造技術、ブランドの吸収などが中心であった。しかし、足元で増えているのは、日本の市場そのものをターゲットにした参入である。これは市場を中国企業に奪われかねず、国内の関連企業は危機感を募らせている。今回は滴滴出行を例に取り、中国サービス企業の実態を紹介したい。
滴滴出行のスマホアプリ、顧客と運転手にベストマッチングを提供
滴滴出行のタクシー配車サービスアプリは、とても便利で、簡単である。あらかじめ登録しておいたIDでスマホアプリにログインし、現在の位置(あるいは来てほしい場所)と行きたい場所を設定するだけで予約は完了する。
中国のタクシー会社では、運転手は通常、会社との間で請負契約を交わす。あらかじめ定めた1カ月間の請負金額を払いさえすれば、残った部分は全て運転手の利益となるような仕組みである。滴滴出行は運転手、顧客間のやり取りをつなぐGPS使用のアプリをスマホ上で提供しているだけである。
運転手はアプリにログインし、滴滴出行が発する情報をもとに、自分の走行する近くに顧客がいれば、その顧客の予約を取ればよい。ただし、他の運転手との競争がある。顧客は、いくつかの候補から自分にとって有利な運転手を選ぶと、選ばれた運転手はその顧客にすぐ連絡する。
料金は距離によって決まり、走行中の料金はスマホ上で確認できる仕組みとなっている。到着後はその金額を運転手に払えばよい。支払いは現金でもよいが、微信(ウィーチャット)の支払い機能を使うことができる。顧客は運転手の評価を行うが、その内容次第で運転手はアプリから排除されかねない。
必然的に運転手のサービスの質は高まる。一方、タクシー会社はこのアプリによって、自分の利益が阻害されることはない。運転手の収益機会が増えることで、運転手が安定的にタクシー業務を続けられるのであれば、タクシー会社にとってもメリットがある。
顧客がベンツに乗りたい場合、あるいは人数が多いので大型バンを使いたい場合、アプリを通じて個人の運転手を探すことができる。選べる車種がいくつかのクラスに分かれており、料金はクラスごとに設定されている。
車の所有者は自分の好きな時間に稼ぐことができ、顧客は自分のニーズを満たすことができる。タクシードライバーではない個人の運転手が運転することから、安全性を気にするユーザーもいるだろうが、滴滴出行は顧客の評価をもとに運転手を厳しく選別している。中国では、国家が自動車の運転を許可したものが合法的に運転している以上、問題はないと考えるユーザーが圧倒的に多いように思う。
ちなみに、個人運転手のサービスを受ける場合には、微信支付、支付宝などによる電子決済による支払が必要となる。滴滴出行は電子マネーを使って運転手から料金を取るためである。