2012(平成26)年12月14日に投開票された第45回衆議院議員選挙は、連立与党の主力を担う民主党が大幅に議席を減らし、2009(平成21)年以降は野党に転落していた自民党・公明党が政権の座に返り咲いた。同選挙では、民主党政権が担った3年3か月に及ぶ成果だった。

大きな期待を背負った民主党政権は、その期待に反して目に見える成果を上げられなかった。他方、野党に転じた自民党は虎視眈々と力を蓄え、2012年9月に総裁として再登板した安倍晋三総裁は3本の矢からなる“アベノミクス”を唱え、日本経済の再生を高らかに訴えていた。

こうして自民党は支持率を回復させ、2012年12月の総選挙で大勝。安倍総裁は再び総理大臣に就任し、日本経済の立て直しを図る舵取りを担う。選挙中から、繰り返し安倍総裁が主張したのは経済再生。その処方箋が、アベノミクスだった。アベノミクスを簡潔にまとめれば「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」の3つの柱で構成される。

アベノミクスによろしく
著者:明石順平
出版社:インターナショナル新書
発売日:2017年10月6日

アベノミクス否定論者の意見

アベノミクス第1の矢である“金融緩和”は、簡潔に言えば日本銀行にたくさんのお金を刷らせることだ。お金を大量に刷れば、市中に出回るお金は増える。そして物価は急上昇する。要するに金融緩和とは官製インフレ政策でもある。

モノの値段が上がれば、所得の少ない庶民の生活は苦しくなる。だが、モノの値段が上がるなら、回り回って庶民の収入も上がるから物価上昇は相殺される。

官製インフレには、モノの値段が上がると思わせることで、消費者に「値段が上がる前に、買ってしまおう」という購買意欲を引き出す狙いも含まれていた。購買意欲が高まれば、市中にお金が回る。お金が循環することで、世の中の景気はよくなる。金融緩和には、そうした狙いがあった。

しかし、それは、あくまでもモノの値段が上がるのに伴い庶民の収入が上がることが前提にしている。収入とはサラリーマンだったら給与であり、個人事業主だったら売り上げから経費を引いた所得を指す。

だが、考えてもみてほしい。サラリーマンの給与を決める権限はサラリーマン自身にない。おそらく所属している部署の上司にもないだろう。大企業でも中小企業でも社長や取締役といった一部の人間によってサラリーマンの給与は決められている。

個人事業主に至っては、仕入れる原料や材料価格が上がるのだから、販売する製品を値上げしなくてはならない。それでも差し引きの所得は変わらない。所得は上がりようがない。

なによりも、個人事業主や中小企業は、簡単に製品を値上げできない。消費税が5%から8%に上がったときでさえ、中小企業や個人事業主は取引先から“経営努力”を迫られて製品価格に転嫁することに難渋した。物価が上がったから製品価格も上げる――そんな机上の論理は現実で通用しないのだ。

今般、日経平均株価が20年ぶりの高値をつけるなど、日本経済は好調に感じさせる。アベノミクス第1の矢である金融緩和が奏功していると思える動きだ。こうした株式市場の活況に対して、アベノミクス否定論者は、「株式による恩恵を受けるのは企業や富裕層であり、庶民に恩恵はない」と断じる。

株高の恩恵は庶民にもあるのか?