不動産物件は一般人が持ち得る資産の中で金額が大きいモノの1つです。そのため、物件所有者の死後に家族間でトラブルが起きたり、物件の処理に頭を悩ませるということもあります。こういったトラブルを未然に防ぐためには、相続に関する基本的な知識と、どういったことが問題になるかを知っておくことが必要でしょう。ここでは、相続と離婚に関連した不動産トラブルを紹介します。
(本記事は、岡田のぶゆき氏、福岡寛樹氏の著書『大家さん、その対応は法律違反です! ~不動産投資の法律トラブルと対策 Q&A~』ぱる出版(2017年11月17日)の中から一部を抜粋・編集しています)
相続に関して起こり得るトラブル
相続についてのトラブルがつきものの不動産において、そうしたことが起きた場合は弁護士と税理士のどちらにすべきか悩みどころではあります。事例の方も、名義と管理のことが複雑に絡み合っています。その方は親から相続する予定の複数の不動産があり、その他に自分自身でも不動産投資を行っていて、RCマンション2棟を所有しています。父親名義の物件については母親が相続していますが、実質管理を行っているのはその方とその奥さん。母親は近隣に住んでいて、他県に嫁いだ姉が2人います。母親がご高齢のため相続の準備を始めたいと考えています。
不動産所有者は、相続についての理解をしておく必要があります。相続とは、人の死亡を原因として財産上の地位(権利義務)を承継させることをいいます。法律上、財産権利を受け継ぐのはその人と一定の身分関係にあった人です。相続の対象となる財産には、土地、建物、現預金などのプラスの財産だけではなく、借金等の債務や損害賠償債務といったマイナスの財産も含まれます。この相続による財産の移転に伴って課税される税金が相続税です。また、遺贈や死因贈与にも、贈与税ではなく相続税が課税されます。
税務に関しては税理士が専門家です。相続税には特例がたくさんあり、特例を上手に使うことで相続税を減らせるケースもありますが、相続人全員の同意が必要であったり、特別な要件がある場合も多く注意が必要です。特に被相続人が遺言を残さずに死亡した場合、相続の発生によって、被相続人の遺産は相続人全員の共有状態となります。そのため、共有状態となった相続財産を各相続人に具体的に配分していく手続きが別途必要となります。これを遺産分割といいます。
「相続財産をどのように分けるか」を、相続人全員で話し合って決めることを「遺産分割協議」といいます。この遺産分割協議で全員が合意できなかった場合は、家庭裁判所で遺産分割をすることになります。いわゆる相続争いをしている状態では、税理士がいくら節税のスペシャリストだとしても、相続人全員の合意がない以上、紛争状態を無視してその手腕を発揮できません。税理士は代理人として活動することができないため、争いを直裁的に解決する手段がないのです。
税理士が対処できるのは、あくまで「争いがない事案だけ」。争い事の解決は、弁護士が担当する部分です。遺産分割で争っており話がつかないときや、争いが生じそうな場合、事前の遺言書作成を弁護士が担当します。遺言書の作成だけでしたら司法書士や行政書士でも可能ですが、裁判の可能性を視野に入れた上で、争いを避けるためには早い段階で弁護士の活用することをおすすめします。
事前に準備ができればいいのですが、急にマンションの相続が生じた場合、ということもあります。たとえば1億円のRCマンションを1棟所有する父親が急死してしまった例。現金資産は数百万円程度。物件の管理は管理会社が行っていました。長女は母親と暮らしていますが、弟長男は既に家を出ていて疎遠にしています。これまでマンションについては父親1人が関わっていたため、家族は状況をよく把握していません。こうしたケースで相続を円滑に進めるためにはどのようにしていけばよいのでしょうか。
この場合、まずは遺産の棚卸しと遺言の有無、法定相続分を確認します。故人の財産調査をして全体像を把握することから始めますが、そのときに注意するのは、不動産や現金といった資産だけでなく、借金などの負債も把握することです。先に現金や預貯金を消費したり、不動産を売却してしまうと、相続放棄ができない状態になります。資産と借金を比べて、トータルで大幅なマイナスになっている場合は、特別な理由があるケースでなければ相続放棄をするほうが合理的といえます。
次に、遺言書の有無を確認してください。遺言書が残されており、それが有効なものである場合は、法定相続分によらずに遺産分割を行いますので、重要なポイントとなります。遺言がない場合は、法定相続分がどうなるのかを確認してください。このケースでは被相続人の配偶者である母親と、子どもで遺産の2分の1ずつを均等に分けて相続します。子どもは姉弟2人なので、2分の1の遺産を2人で分けます。
配偶者である母親と子ども2人が相続することを一次相続、その後、母親が亡くなり、子2人が相続することを二次相続といいます。一次相続では相続人が3人いましたが、二次相続では相続人が2人となり、基礎控除額も減ることになります。また、母親には配偶者控除(配偶者の税額軽減)という制度がありますから、一次相続ではかからなかった相続税が、二次相続でかかってくるケースもあります。そのため、一次相続の時点で二次相続までしっかり考えておきましょう。
収益不動産については、アパートを3人の共有名義にしたほうがいいのか、誰か1人が持っていたほうがいいのかという問題が生じます。不動産を売ることができれば(相続分にしたがって)分けて終わりますが、その不動産を売れない場合に争いになるケースがあります。また、不動産が分割できない場合や、どう売るかという売り方の部分で意見が分かれることも。相続人である親族間で「保有しよう派」と「売って分けよう派」で意見が割れてしまった場合、なかなか協議はまとまりません。いずれにしても、不動産については、1人の名義で持っているほうが、後々のトラブルは少ないといえます。
「物件を売ってお金にして、みんなで分けよう」という場合、できるだけ高く売りたいのは当然ですが、そんなに時間をかけて売却する猶予はありません。相続税の申告と納税の期限は、相続開始を知った日(被相続人の死亡した日)の翌日から10カ月以内です。その期限に間に合うよう、売却のスケジュールを逆算して考えます。また、よく問題になるのは、遺産分割協議が成立するまでの間の家賃収入は誰のものかということです。収益不動産から得られるお金や金銭債権などは、法定相続分に従って当然に分割されて取得します。そして遺産分割協議が成立した後は、そのマンションの所有権を最終的に獲得した人にそれ以後の家賃収入が入ってきます。遺産分割が済まないうちは、理論的には、各共同相続人が賃借人に対して、それぞれ分割債権として賃料請求を行います。しかし、賃借人の立場からすれば、誰にいくら賃料を弁済すればよいか判断がつけにくく、その場合、賃料を供託します。
離婚で発生するトラブル
相続は所有者が亡くなったときだけではありません。夫婦間の離婚が生じたときにも発生するのです。たとえば夫婦2人の共有名義で融資を受けて、契約者は夫、連帯保証人が妻になっている場合。円満なときは問題ありませんが、いざ離婚となれば妻の名義を変えたり連帯保証を外したりすることができるのか悩むところです。
事例では、相談者は中古のRCマンション1棟と新築の木造アパートを複数所有しています。10年前にはじめて購入した一棟マンションの名義は夫でで、連帯保証人が妻となっています。また、ここ数年で3棟取得している木造アパートは妻と夫の共有名義です。現在、妻と不仲で離婚を考えており、その際の懸念事項は、収益不動産について。この場合離婚をすると、妻の連帯保証を外したり、共有名義を抜いたりすることはできるのでしょうか。
この場合、離婚したからといって、保証人関係が当然になくなるものではありません。銀行の許可を得て連帯保証人から外すことが可能なのか、という交渉をすることになります。同等もしくはそれ以上の資力のある他の人を連帯保証人として立てれば、代わってもらうことができる場合もあるでしょう。ただ、これは法的に請求できる権利ではないので、事実上の話し合いになります。夫婦共有名義の収益不動産の場合は、一方が他方に対して代償金を支払って単独所有とするか、離婚後も共有物として共同して使用収益していくかを決める必要があります。
最近では離婚というのは珍しいものではありません。結婚前に、離婚の心配をする方がいても仕方のない社会現象なのかもしれません。そうした懸念から、次のような相談も増えています。この方は30代の女性です。本業はOLですが3年前に区分マンションを購入しています。現在は自分の購入したマンションに住んでいますが、年内に結婚する予定があり、結婚後は夫婦で新しく家を購入するつもりとのこと。その際に、現在住んでいるマンションは賃貸に出す予定です。また、亡くなった両親から継いだ戸建て(元実家)があります。こちらは現在、相談者の名義で賃貸に出しています。相談者としては、両親が遺してくれた家や、自分が資金を貯めてローンを払ってきたマンションを分与することに抵抗を感じます。仮に離婚となったとしても夫に財産分与をしたくない場合に、対策を講じておくべきかという悩みです。
結論からいえば、結婚前に「夫婦別財産制の契約」を結ぶことで、別財産が可能です。原則として婚姻前から所有している個人名義の収益不動産は、財産分与の対象とならない「特有財産」とされることが多いですが、夫婦の家計の収入源が夫の不動産収入のみというケースでは、不動産から生じる家賃収入についても共有財産と評価されることがあります。民法では夫婦共有財産制が原則なので、婚前の財産は固有資産で、結婚後に取得した財産は原則として共有財産とされています。結婚後の財産関係について、それぞれ別にしておきたいという場合には、夫婦財産契約を利用することが考えられます。夫婦財産契約とは、婚姻届前に夫婦間の財産について契約を締結してルールを明確に定め、登記をしておくというものです(民法755条以下)。
具体的には、夫婦が共働きで得た収入はそれぞれの固有財産とするとか、不動産は所有名義人の財産とするとか、財産分与に関するルール等を定めることができます。この夫婦財産契約は、結婚後に締結したり、登記をすることはできません。一般的に、財産分与等の問題意識は、離婚を検討し始めたときに生じるものですから、夫婦財産契約が活躍する場面はほとんどないといえるでしょう。お互い自立している者同士が共同生活を送るような場合や、もともとの資産家の家系で財産の混同を避けたいという場合には、後々のトラブル回避のためにも夫婦財産契約を検討するのも良いと思います。
岡田のぶゆき(おかだ・のぶゆき)
大阪生まれ。23才から投資効率を最大限高める事を目標に収益物件への不動産投資を始める。主な投資先は一棟マンションを中心にビル、区分所有、底地、工場、倉庫、駐車場、別荘等多岐に渡る。約45億以上(売却済物件を含む)投資し、実行融資総額は35億以上。売却総数約60件。現在も年間平均10件以上売買を繰り返す。「長期的保有による賃料収入」「物件再生、不動産評価の価値を向上させて売却益を得る」等を考え投資している。2012年4月に不動産投資家コミュニティ「これから大家の会」を設立し、勉強会、交流会を開催している。
福岡寛樹(ふくおか・ひろき)
平成23年 弁護士登録、大阪弁護士会所属。弁護士登録後、顧問先企業を中心に不動産関係の紛争を数多く解決するなどして経験を積む。平成29年 袖縁綜合法律事務所 開設。これまでの経験を活かし、不動産投資家向けの講演を実施している。経営者や士業の交流を目的とする「袖縁会」を主宰し、落語会を開催するなどの活動も行っている。
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