あらゆる疲れの原因は「自律神経」にあった!
一流の人は、休息の取り方にも工夫や哲学をもっている。しかし、心身の休息は一朝一夕に達成できるものでない。そこで本インタビューでは、「そもそも人はなぜ疲れるのか」を部位別に学び、さらに、「なぜ40代を超えると疲れやすいうえに疲れが抜けにくくなるのか」を知ることで、個人個人がより良い休息を取るための一助としたい。「疲れ」の専門家、医師の梶本修身氏に、疲れのメカニズムについてうかがった。(取材・構成=林 加愛)
疲れの根本原因は「脳」にある!?
人はなぜ疲れるのか。これに対し、今までは「乳酸の増加」「肝臓機能の低下」などの説明がなされてきました。しかし最新の医学では、それらの説をすべて覆くつがえす、根本的な原因が判明しつつあります。
それはズバリ、自律神経の機能低下。この自律神経の機能低下率が、体力や持久力の低下とほぼイコールであることがわかってきたのです。
自律神経とは、あらゆる体内活動の司令塔です。脳内の視床下部と前帯状回にピンポン玉大の自律神経中枢があり、呼吸、心拍、血圧、体温調節、ホルモン分泌まで、すべてを制御しています。この小さな拠点が絶えず全身に注意を払い、零コンマ何秒ごとに指令を発します。
頭や身体を使い活動量が多くなるほど、指令の数も増えます。すると自律神経の細胞は、大量に酸素を消費します。ここで発生するのが活性酸素。これが自律神経細胞を「錆びさせる」ことで、機能が低下します。この「自律神経細胞の錆び」こそが、疲労の正体です。
つまり、疲れは「身体」ではなく、「脳」で起きているのです。 「でも、1日働くと腰は痛いし、肩もバリバリ。疲れているのは、あくまで身体では?」と思われるかもしれません。しかし実は、凝りや痛みの原因も自律神経にあります。直接的原因は血流とリンパ液の循環が悪くなることですが、これらを司るのは、そう、自律神経です。ちなみに、肩凝りは自律神経失調症の典型的症状のひとつです。
「それでも、運動後の疲労はやはり筋肉の疲れなのでは」と思うでしょうか。ここで「3キロ歩く」ことを考えてみましょう。気候の良い日に歩くのと、炎天下で歩くのでは、どちらが疲れるか。当然、後者ですね。
筋肉を動かした量は同じなのに、なぜ違いが出るのか。答えは、炎天下でも身体の恒常性を保てるよう、自律神経中枢がフル稼働するからです。体温の上昇を防ぐために汗を出し、脳に酸素を送り込むために呼吸数を上げ、脈拍数を上げ……と次々に指令を出し、歩き終えた頃にはヘトヘトになっているわけです。
身体は「鍛える」よりも「いたわる」
それなら、自律神経を鍛えればいいということになりますが、これはほぼ不可能です。ちまたでは「適度な運動が自律神経を強くする」と言われますが、「適度」の基準は人それぞれ。鍛えるつもりが「オーバートレーニング」になる可能性も少なくありません。過剰な運動が続くと危険です。一時的な「疲労」が、「老化」というステージに進んでしまうからです。
前述のとおり、疲労の原因は神経細胞の「錆び」。通常の疲労なら、睡眠で錆びは取れます。しかし錆びがこびりつき慢性化すると、身体は老化します。ですから、自律神経は「鍛える」よりも「休める・いたわる」アプローチがお勧めです。
ひと言で言うと、身体の欲求に素直に従うこと。自律神経の余計な仕事を増やさず、眠ければ眠り、食べたければ食べ、活動したければするのが究極の理想です。
とはいえ、これはなかなか難しい。せめてもの対策としては「日中は交感神経の仕事を減らし、夜は睡眠中に働く副交感神経の仕事を減らす」ことです。そのためにできる工夫はいろいろあります。本誌24~25ページでは、「40代・50代の疲労の傾向と対策」についてお話ししますが、ここではまず身体の部位別に、「何をすると、なぜ疲れるのか」を解説しましょう。
<身体の部位別疲れの原因とその対策>
頭……その原因は「眼・肩・首」にあり!
頭がだるい、重い、痛いといった症状には、さまざまな原因がある。たとえば片頭痛には遺伝子が深く関わっているらしいことも最近の研究で明らかになってきているが、最も一般的な頭痛の原因は、眼の疲れや肩・首の凝りから来ているもの。「眼」と「肩凝り」の項目を参照し、改善を心がけてほしい。また、寝る前、暗い部屋でスマホの強い光を見る習慣などはご法度。睡眠の質を下げることは頭痛を引き起こすので注意が必要だ。
肩凝り……マッサージもいいが、もっと大事なこととは?
肩凝りに限らず、腰痛や足の疲れなど「マッサージで癒してもらいたい症状」は、自律神経の機能低下により血液・リンパ液・関節液の流れが悪くなることによって起こる。マッサージを受ければ、外からの刺激で促される血流増加や、リラックス効果がもたらす副交感神経の活性化によって一時的な回復が得られるが、循環の悪さという根本的な原因は取り除けない。自分で身体を動かして、循環を良くする工夫が必要。両手が心臓より高い位置にくるように「バンザイ」をして、手を握る・開くという動作を繰り返すと、滞りがちな静脈血が心臓に戻りやすい。肩凝りの軽減のほか、指先の冷えにも効く。
腰痛……30分に1度の「トイレ休憩」はマスト!
デスクワーカーにはおなじみの症状、腰痛。直接の原因は、同じ姿勢を長時間続けることだが、これがさらに深刻な症状を引き起こす恐れがある。股関節や膝など、直角に曲がる部位では血流が滞りやすく、4時間座り続けると腎臓の血流が10%も低下するのだ。1日7時間机に向かう人は3時間未満の人に比べて死亡率が約2倍、というショッキングなデータも。予防策は当然、「姿勢を変える」こと。30分に1度は立ってトイレ休憩を。また、「貧乏ゆすり」も血流を大幅に改善させる。マナーとしては難ありだが、予防策として大いに活用したいところだ。
眼……なるべく「人として自然な状態」に戻そう
眼精疲労は、自律神経の本来の機能に逆らうことで発症する。元来、哺乳類の眼は活動時=交感神経優位時には「遠く」を、リラックス時=副交感神経優位時には「近く」を見る仕様になっている。野生動物は狩りをするにも捕食を逃れるにも、広い視野で遠くまで見なくてはならない。逆に、子供が母と接するような安らかな場面では、眼は近くを見ている。つまり、パソコン作業等のデスクワークは「交感神経優位時に近くを見る」ねじれ状態。交感神経優位にもかかわらず眼には副交感神経刺激を与える必要があり、その矛盾で自律神経機能不全に陥りやすい。結果、集中力の低下や頭痛を伴う眼精疲労へ発展する。休憩時間に窓から遠くを見るなどしてバランスを取ろう。
脚の疲れ……歩いたほうがむしろ疲れが取れる!?
脚の疲れも、肩凝り・腰痛と同じく血流とリンパ流が原因。座り仕事で血流とリンパ流が悪くなると、なんとか流れを回復させようと、ますます自律神経が稼働する。こうなると、疲労が疲労を呼ぶ負の連鎖に。それを防ぐには、「歩く」=脚を動かすことで自律神経の仕事を減らすのが一番。足の筋肉が伸縮すると、「ミルキングアクション」という、牛の乳しぼりのような動きが起こり、下方に沈滞した静脈血が心臓に戻りやすくなる。冷えやむくみの解消、老廃物の排出効果も。コツは、短く頻繁に行なうこと。30分に一度、席を立ち、20m歩くだけでも効果あり。
梶本修身(かじもと・おさみ)医学博士 /東京疲労・睡眠クリニック院長
1962年生まれ。大阪大学大学院医学研究科修了。東京疲労・睡眠クリニック院長、大阪市立大学大学院疲労医学講座特任教授。2003年より産官学連携「疲労定量化及び抗疲労食薬開発プロジェクト」統括責任者を務める。ニンテンドーDS『アタマスキャン』のプログラムに携わる。近著『なぜあなたの疲れはとれないのか?』(ダイヤモンド社)ほか著書多数。(『The 21 online』2017年12月号より)
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