冬の気配を感じながら、ヴラマンクの絵画展に行ってきた。晩年、自らが暮らす町や村の荒涼たる風景、とりわけ雪景色の絵を力強いタッチで数多く描いたこのフランス人画家は、練達の文章家でもあった。その彼が遺した文章に「常軌を逸した理論という悪魔の箒にまたがっている」という一節がある。
本書の著者三橋貴明氏がそのプロパガンダや言説の虚偽を鋭く指摘した財務省、有力政治家、御用学者、大手マスメディアの実態をかくも的確に言い得た表現もあるまい。彼らは、プライマリー・バランス(PB)黒字化目標達成のための消費増税という「常軌を逸した理論」を布教する悪魔の伝道師のようである。
『財務省が日本を滅ぼす』
著者:三橋貴明
出版社:小学館
発売日:2017年11月5日
デフレ期のPB黒字化は「国家的自殺」の道
PB黒字化は日本経済の喉元に刺さった「毒針」だと著者はいう。PB(基礎的財政収支)とは、「国債関連費(国債の償還や利払い)を除く、政府の歳出と歳入(税収、税外収入)のバランス(収支)」と定義される。日本の財政破綻を避けるには財政収支をプラスにする必要があると識者に言われると、一見もっともらしく聞こえるが、果たしてそうか?
このPB黒字化目標の達成あるいは「財政健全化」をめざす財務省は、緊縮財政路線を強力に推し進めている。著者はこの「緊縮財政」と、グローバリズムの代表的な政策である「規制緩和」「自由貿易」を併せて「グローバリズムのトリニティ(三位一体)」と呼び、これらが日本経済をデフレ化させる「悪夢の循環関係」にあると指摘している。
日本のデフレ経済はバブル崩壊によって始まったと思われがちだが、それは「誤解」だと著者はいう。正確には、1997年の橋本緊縮財政こそ、デフレ化の引き金を引いたのだ、と。のちに橋本龍太郎首相は、緊縮財政政策によって「国民に迷惑をかけた」ことを謝罪し、死の床まで悔恨の情に苦しんだと伝えられている。
しかし現在の日本の宰相は、ドイツの鉄血宰相ビスマルクが言った「歴史に学ぶ」(=先人の失敗から学ぶ)賢慮を欠いているようだ。著者は、「日本国は財務省主導の下、緊縮財政を推進し」、「デフレによる貧困化路線を選択し、国家的自殺路線を邁進している」と述べ、具体的なデータを示しつつ、安倍首相は“日本史上最悪の「緊縮総理大臣」”とまで言い放つ。