米株価が堅調に上昇を続けている。こうした環境のなか、世界的な伝説の投資家である「投資の神様」のウォーレン・バフェット氏(87)、「イングランド銀行(英国中央銀行)を破綻させた男」のジョージ・ソロス氏(87)、「歴史的大局観のグローバル・マクロ投資法」のジム・ロジャーズ氏(75)はどのような相場観を持って投資をしているのか。
夏以降の発言や投資傾向などから彼らの現在の経済に対する大局的な見解を明らかにし、そこから導き出される国別、セクター別、銘柄別の投資方針を分析する。その上で、一流の投資家に学ぶ2018年の投資方針を予想してみよう。
柔軟なバフェット、失敗に学んだソロス、多様化のロジャーズ
まず米保険・投資会社バークシャー・ハサウェイを率いる「オマハの賢人」ことバフェット氏は、引き続き米経済に全幅の信頼を寄せている。事実、米経済は7月から9月期に速報値で3%台の成長を記録するなど堅調で、バフェット氏が主力投資先にする米株式もイケイケの上昇を見せている。ダウ平均は24000ドルを狙う勢いだ。熱くもなく、冷たくもない適温の「ゴルディロックス相場」が形成されているとの評価も多い。
そうしたなか、優良銘柄が下げたときに大量に仕込んで値上がりを待つ「バリュー投資」で知られるバフェット氏は8月下旬のインタビューで、「数年前から続く株の強気相場で、株価はこれまでの大半の時期ほど割安ではない」と述べ、新たに仕入れるネタ不足を嘆いた。
とはいえ、以前に安く取得した株式や各種事業は好調であり、しっかりと儲けは出している。これが、バークシャー・ハサウェイに悩みをもたらしている。4月から6月期の同社の手元現金が1000億ドル(約11兆円)弱にまで膨れ上がっており、さりとて割安株が見つけにくいため、現金が行き場をなくしているからだ。
「多額の資金を、ほとんど利息の付かない形で長期にわたって保有すべきではない」との信念を持つバフェット氏は、自らが信を置く米経済が好調ゆえの「ぜいたく」な困難を経験しているのだ。同氏はリベラル寄りの思想を持つが、保守のトランプ大統領による「トランプ相場」が形成されれば、信条にこだわらず、それに乗る柔軟さを持つ。
対照的なのが、著名ヘッジファンドであるソロス・ファンド・マネジメントを率いるソロス氏だ。同ファンドは、トランプ氏が米大統領に当選した昨年11月以来、一貫して米国株を空売りしてきた。トランプ嫌いの政治的信条が、投資方針に干渉したとも言われる。
ところが、「トランプ氏が大統領に当選すれば、米国株は暴落する」と広く信じられた事前予想は外れてしまった。米株は「トランプ相場」で昨年の大統領選当時から20%以上も上昇を続けている。にもかかわらず、ソロス氏は逆張りで売り続けた。8月に入っても売り増しを重ね、損失が膨らむ一方でも売り続けたのである。
ついに9月末の時点で、これらの空売りポジションの大半を精算していたことが明らかになった。大きな損失に耐えられず、撤退したわけだ。ソロス氏は失敗を通して、米経済と米市場の強さを認める相場観に転換した。
一方のロジャーズ氏は、多様化したポートフォリオで俊敏に動き回っている。米国株に対する見解は、バフェット氏とソロス氏の中間のようで、日本株・中国株・ロシア株など他の投資機会との比較において「アンダーウェイト」としている。「現在の相場は割高で、いずれ売られる」のが理由だが、銘柄やタイミングによっては選好するということだ。事実、「米株式が暴落すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が必ず助け舟を出す」と踏んでいる。
そうしたロジャーズ氏は日本株への投資を勧めている。理由は、「日本銀行の指数連動型上場投資信託受益権(ETF)など資産購入が、株保有者にとっておいしい」「安倍政権が株価を支えるために何でもする」からだ。
中国株については従来からの強い「中国推し」から、「世界経済が順調である限り、中国経済も好調であり続け、株式も上げる」と見ている。またロシア株は、「ロシア経済は不況を脱し始める段階にある」ためにオススメなのだという。中国の巨額負債やロシアの原油価格リスクなどは存在するが、ロジャーズ氏はそうしたリスクを取っても中国株やロシア株を買うべきだとしている。
このように、世界の3大投資家の相場観は割れている。バフェット氏は、「米国株式投資は次第に魅力が薄れてきたものの、それでも債券と比べれば非常に投資妙味がある」として、有望分野を買い増す。
空売りで敗れたソロス氏は、渋々「トランプ相場」を追認する。そしてロジャーズ氏はFRBが米株暴落の際に市場を助けると見通した上で、現時点では主に外国株を買い増しているのだ。自己の信念や感情と、投資戦略を切り離す者が勝利を得る。
なお、バフェット氏もロジャーズ氏も、「ビットコインはバブルであり、避けるべき」とアドバイスしている。
トップ投資家の相場観に見る米国株の「買い」銘柄は?
では、これらトップ投資家の相場観に立てば、どのような米国株が「買い」になるのだろうか。
バフェット氏を例にとると、8月下旬に「補佐役の一人がアップル株を売却しているが、それでも自分は今年、同株を買い増している」と発言した。アップル株はその後下げたが、再び上昇に転じ、バフェット氏の忍耐と読みの方が優れていることを証明した。バフェット氏の相場観で立てばアップルは「買い」だ。
一方、原油価格の上昇などビジネス環境が悪化する米航空株について、バフェット氏は手放さずに持ち続けている。そこに何かの投資ヒントが隠されている可能性もある。キーワードは「忍耐」だ。
翻って、全体的に感情に左右されたソロス氏は、個別銘柄で「トランプ銘柄」とされるケーブルテレビとインターネットプロバイダーのリバティ・ブロードバンドに投資して、成果をあげている。連邦通信委員会(FCC)がネット中立ルールを廃止して、インターネットプロバイダーがコンテンツプロバイダー向けの料金を利用内容に応じて引き上げることで、利益が急増することが予想される。トランプ銘柄のインターネットプロバイダーも「買い」であろう。
2018年は、バフェット氏が説く「忍耐」や、ソロス氏も認めた「トランプ銘柄」への投資が見直されるのかもしれない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)