老後のお金の運用方法として、教育費、住宅ローンの支払い、退職金の使い方、保険の取り扱い方など、いろいろな悩み事がありますよね。これらを具体的にどのように設計し、運用していくべきかということを学んでいきましょう。
(本記事は、長尾義弘氏、中島典子氏の著書『金持ち定年、貧乏定年』(実務教育出版、2017年11月1日)の中から一部を抜粋・編集しています)
夫婦の場合は妻の年金も計算
最近は、フルタイムで共稼ぎという家庭も多くなっています。 妻(配偶者)がフルタイムで働いている場合は、夫と同じように国民年金と厚生年金を計算します。
たとえ途中で退職し以後は勤めていなくても、厚生年金に1年以上加入した経験があれば、60歳以降に支給される特別支給の老齢厚生年金と、65歳以降の老齢厚生年金を受け取ることができます。 夫の扶養範囲内でパートやアルバイトをしたけれど、厚生年金には一度も加入していない人は、国民年金のみになります。
もし、妻が昭和41年4日1日以前の生まれなら、振替加算があるかもしれません。
厚生年金や共済年金の加入期間が合計20年未満で、加給年金を受けていた場合です。
妻が自分の老齢基礎年金を受け取れる65歳になると加給年金は打ち切られますが、かわりに振替加算がプラスされます。
退職金の受け取り方
退職と聞いてすぐに思い浮かぶものといえば、退職金です。
退職金は出て当たり前と思いがちですが、じつは会社が退職金を支払うという法的な根拠はありません。
退職金とは賃金の一部を積み立てた分の後払い、企業に貢献した報償金、老後の生活資金といったもので、会社の規定になければ払わなくてもいいのです。
厚生労働省の調べ(平成25年就労条件総合調査結果の概況)によれば、退職金制度のある企業は75%です。もしかすると退職金がないかもしれませんから、確認しておきましょう。
ここは曖昧に誤魔化すよりも、「老後設計のために退職金について知りたい」と、正直に尋ねるほうがベターです。
また、退職金の受け取り方も会社によって違います。
まとまった金額を一時金で受け取る、年金のように毎月一定額を支給される、あるいは一時金と年金方式の併用といった具合に、3つのタイプがあります。
一時金と年金方式とでは、どちらのほうが得なのでしょうか。
退職金の金額やその他の所得などによって異なってくるため、これはケースバイケースです。ただ、一般的には一時金で受け取ったほうが得になるケースが多いといえます。
例をあげて説明しましょう。
60歳定年・勤続年数30年で、退職金は1500万円。
64歳まで再雇用で給料を受け取り、65歳からは公的年金のみ。
A:全額を一時金で受け取る
B:10年の年金で受け取る(運用利率2%)
支給金額だけを見るとBのほうが多くなりますが、受け取った年金には税金(雑所得)と社会保険料がかかってきます。
AはBより金額は少ないのですが、退職所得控除が使えるため、実際に受け取れる金額が大きくなります。社会保険料も含めると、一時金のほうが手取りは多くなるのです。
会社の規定に従って支払われるものですから、社員側に選択の余地はないかもしれません。
それでも、頭に入れておいて損はないでしょう。
すべての資産を確認
退職の際に受け取るものは、退職金だけとは限りません。
会社によっては、社内預金制度、社内積立金、財形貯蓄を行っています。公務員の場合は、共済預金などの制度もあります。これらも、一度チェックしておきましょう。
退職時の受け取り方法も大事なポイントです。
非課税になるのか。
利子は退職金控除に入れられるのか。
そういったさまざまな条件で手取り額も変わってきますので、確認しておきたいところです。
さて、老後資金にはもちろん資産も含まれています。
この機に資産の総ざらいをしましょう。
銀行や郵便局の口座に預けてある普通預金、定期預金は、残高を書き出します。
投資関係も総額をまとめます。国債や社債の金額や、株式や投資信託は現在の評価額を計算します。
証券会社から年間取引報告書が送られてくるはずですので、その数字を参考にしてください。
また、不動産を持っている人は、売却すると仮定した場合の価格を割り出します。
おおまかな数字でかまいません。ネットで検索しても、ある程度の参考価格はわかります。
一方、不動産を貸している場合は毎月の家賃収入になります。
後述する「退職後のお金のプラン表」では資産ではなく収入の欄に記入します。
意外に思うかもしれませんが、生命保険も資産の一部です。
といっても、ここで資産と見なすのは、60歳以降にまとまった金額が確実に受け取れるタイプです。いわゆる、貯蓄型の保険を指します。
ですから、掛け捨ての医療保険のように「入ってはいるけれど、もらう機会があるかどうかわからない」ものは省きます。
終身保険などは、60歳以降の解約返戻金の額を書き入れます。個人年金保険であれば、受け取るであろう年金額を書いてください。
こうしてすべてを洗い出せば、自分の資産状況を把握することができます。これを元に今後の資産計画を立てればいいわけです。
住宅ローンの返済は?
支出というと誰でもすぐに生活費を思い浮かべるでしょう。もちろん生活費の把握は大事です。しかしそれ以外にもネックとなるポイントがあります。 定年後、最も大きな支出になりそうな要素は、住居費と生命保険です。
最初は住宅ローンについて見ていきます。
定年前に住宅ローンの支払いが終わるならまったく問題ありませんが、定年後も続くケースは要注意です。収入が年金だけになった状態では返済の負担が思いのほか大きく、老後破綻の引き金にもなりかねません。
住宅ローンはいつ完済するのかを、まず確かめてください。また、定年時に残債がどの程度残っているのかも確認が必要です。
定年後も住宅ローンが残っている人は、退職金での完済も考えましょう。
もちろん定年を待たずに、いまから見直しをするのも有効な手です。
現在はマイナス金利の時代で、住宅ローンの金利もかなり低くなっています。金利が高いまま返済を続けているのであれば、借り換えたほうがいまよりもローンの返済額が少なくなる可能性があります。
ひとつの目安として、残債1000万円以上、残りの返済期間10年以上、現状との金利差0・5%以上なら、検討してみてください。
あるいは、いまの段階で資金に余裕があれば、繰上げ返済を考えてもいいと思います。
繰上げ返済には、月々の支払い額を減らす返済額軽減型と、返済期間を短くする期間短縮型の2種類があります。
どちらも効果はあるのですが、両者を比較すると期間短縮型のほうがメリットは大きいといえます。
短縮された期間の利息を払わずにすむため、ローンの支払い総額が少なくなるのです。
定年までに住宅ローンを終わらせることができれば、退職金はまるまる老後資金に充てられます。
賃貸で更新料がある場合は、現在の1年分の家賃に更新料をプラスします。2年契約で更新料が1ヵ月分なら、1年間の家賃を12・5ヵ月として計算しましょう。
教育費の現状と見通し
50代半ばといえば、子どもが大学生になって教育費の負担が重くのしかかっているころでしょう。
もうひと踏ん張り。子どもが独立したら、家計はぐっと楽になるはずです。この時期は教育資金のスケジュールと、老後資金の兼ね合いが大切です。
大学生も後半になると少し余裕が出てくるでしょうから、老後資金に回すことも考えてみてください。
近ごろは奨学金制度や教育ローンを利用する人が増えていますが、ここは要注意です。
子どもが大学を卒業したあと10年も15年もローンの支払いが残り、大きな負担になりかねません。
奨学金の返済は親が行うのか、子どもが行うのかは思案のしどころです。また、返済の計画も検討しましょう。
住宅ローンと同様に奨学金も繰上げ返還が可能で、早く返し終わったほうが支払い総額が減ります。
住宅ローンに比べて、奨学金は毎月の返済額が少ないもの。そのため後回しになりがちですが、じつは年利で見ると住宅ローンより高いのです。
住宅ローンより先に手を打ってもいいかもしれません。年金暮らしになって支払いが続くのは、けっこう重荷になります。
保険の見直し
今度は保険の見直しです。貯蓄型の保険は資産であると同時に、支出でもあります。
資産となる保険金を受け取るためには、保険料を払わなければならないのです。
まずはどんな保険に加入しているかを洗い出し、それぞれについて払っている保険料をチェックします。
口座引き落としだと無頓着になりがちですが、家計に占める保険料の割合はけっこう大きいことに気づくでしょう。
保険を見直す際には保険料と保障内容の両方に注目します。
会社員なら、団体加入の保険に入っている人も多いと思います。団体で加入する保険は生命保険に比べて保険料が安い場合もあります。
しかし、保障内容や契約内容は会社によってまちまちです。その保障は定年で終了するのか、継続できるのか。また、家族の保障はどうなるのか。こういった詳細は会社に確認してください。
すでに子どもが独立した、あるいは独立間近なら、もうそれほど大きな保障は必要ないでしょう。
高額な保障がついた定期保険は解約してもいい時期かもしれません。まったく保障がなくなるのは不安だというのであれば、保障の減額も有効です。
逆に、解約してはいけない保険も存在します。以前に入ったまま契約が続いている生命保険は、定期保険付終身保険の可能性があります。これは10年以上前、大手保険会社の主力商品でした。
この保険の終身部分だけは予定利率がよく、いまや「お宝保険」と呼ばれています。 大切に取っておきましょう。
ただ、60歳や65歳で払込満了となったあと、医療保障や三大疾病などの特約は契約が終わり、更新すると保険料が高額になるかもしれません。
特約部分の保障は見直しが必要だといえます。そして、見直すならいまです。
60歳を過ぎてから生命保険を見直そうとすると、年齢制限で加入できない商品があったり、保険料が高くなったりします。
年齢を重ねるごとに健康のリスクは高まり、血圧やBMIなどの数値も悪くなってきます。
加入条件をクリアすることが難しくなるわけです。
また、薬を服用していると、希望する保険の契約自体ができないケースもあります。
引受基準緩和型の保険には入れても、保険料は高くなります。
保険は次々と新しい商品が出ており、以前と比べて保険料は安いのに保障は手厚くなっていることも珍しくありません。
掛け捨ての保険はいつ解約しても損はないので、いまのうちに入り直す手もあります。それから、定年後に残す保障を取捨選択することも大事です。
必要ないと判断した保障は思い切って解約し、保険料として払っていた分を老後資金の備えに回してもいいでしょう。
75歳からは後期高齢者医療制度
65歳以降は医療制度にも変化があります。
まず、65歳から74歳までを前期高齢者と呼びます。といっても、60代はこれまでと何も変わらず、医療費の自己負担も3割です。
実際に変化が現れるのは70歳です。70歳になると、それぞれが加入している健康保険から「高齢受給者証」が交付されます。
この高齢受給者証を持っている人は、自己負担が2割になります。ただし、現役並みの所得がある場合は、自己負担は3割のままです。
高齢受給者証は医療機関の窓口で、保険証と一緒に提示してください。これが74歳まで続きます。
そして、75歳で大きな節目を迎えます。いままで入っていた健康保険を脱退し、「後期高齢者医療制度」に加入することになります。
ここは自動的に移行しますので、手続きは必要ありません。
自己負担はさらに下がって1割へと変わりますが、こちらも現役並み所得者は3割です。後期高齢者の場合、課税所得が145万円以上ある人が現役並みと見なされます。
医療機関の窓口では、高齢受給者証にかわって、後期高齢者医療被保険者証を提示しましょう。
後期高齢者医療制度は75歳以上の人すべてを対象としています。ほかに選択肢はありません。
会社をリタイアした人も自営業者も、あるいはまだ現役で会社員をやっている人も一律に加入します。
自己負担が軽減されたとはいえ、後期高齢者医療制度にも保険料は発生します。
保険料は都道府県によって異なりますが、原則として年金から天引きされます。
ところで、家族の扶養に入っていたときはどうなるのでしょう。後期高齢者医療制度に例外はなく、75歳になったら扶養から外れます。
したがって、退職後は保険料を払わずにすんでいた人も、これ以後は自分の年金から保険料を払うことになります。
なお、後期高齢者医療制度へと移行しても受けられる給付等の内容はほぼ同じで、高額療養費制度も使えます。
・がんのリスク
・介護のリスク
・長生きのリスク
・相続のリスク
これらの悩みをすべて保険で解決しようとしたら、いくらお金があっても足りません。
保険料に圧迫され、老後の生活が苦しくなってしまいます。
生命保険とは、大きな損失を伴う不測の事態を、経済的にフォローするものです。そのリスクには生命保険で備えるべきか、それとも貯蓄で対応できるのかと分けていけば、自ずと必要な保障がわかってきます。
・がんのリスク
60歳以降、がんの罹患率は急激に上がります。がんというと高額な医療費を思い浮かべますが、それは先進医療や自由診療を受けた場合。
保険診療なら高額療養費制度を利用できるので、月に9万円以上にはなりません。
ただ、生活費の負担や精神的な不安は大きいため、ある程度は保険で備えておいてもいいでしょう。
診断一時金が手厚いがん保険を選ぶと、そのお金を治療費や生活費に充てられるので便利です。
・介護のリスク
介護は大きな問題です。平均寿命は延びても健康寿命は追いついておらず、両者には11年の開きがあります。
もしかしたら、何らかの介護や支援が必要な状態になってしまうかもしれません。
公的介護保険では、要支援・要介護に認定されれば、自己負担は1割か2割になります。しかし、実際には介護保険でまかない切れない、さまざまな費用が発生します。
保険会社からも介護保険が出ています。貯蓄で備えるのがいちばんだと思いますが、貯蓄が心許ない人は検討してもいいでしょう。
ただ、支払い条件が緩いものは保険料が高く、安いものは条件が厳しい傾向にあります。
・長生きのリスク
個人年金保険があげられますが、マイナス金利の影響を受けて貯蓄の機能があまりなくなっています。貯蓄と保障は分けて考えましょう。確定拠出年金やNISAを利用したほうが、効率的に貯められます。
・相続のリスク
相続税法の改正によって、相続税がかかる人が大幅に増えました。じつは、ここで終身保険が活用できます。
保険には相続税の非課税枠があるため、相続税対策としては有効な方法です。保険料の負担はばかになりません。保険は本当に必要な保障だけに絞り、浮いた保険料を老後資金に回しましょう。
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プロフィール
長尾 義弘 (ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。
http://neo.my.coocan.jp/nagao/
中島 典子 (なかじま・のりこ)
広尾麻布相続センター、中島典子税理士事務所代表。税理士、社会保険労務士、CFP。起業家の創業から税務会計・資産形成・相続事業承継までのトータルサポート業務、FP関連書等の執筆、講演、子どもからシニアまでの金融経済教育で活動。著書『会社が知っておきたい補助金・助成金の活用ガイド』(大蔵財務協会)、共著に『いまからはじめる相続対策』(日本実業出版社)、『FP技能士2級AFP 問題集&テキスト』(成美堂出版)など。
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