定年後の生活設計において、「お金」は重要なキーワード。世知辛い話に聞こえるかもしれませんが、暮らしていく上でお金が欠かせないのも事実です。これから先のお金を考えることによって、定年後のイメージがより具体的に、そして現実的になってきます。具体的にどのように、お金の対策をしていくべきか、学んでいきましょう。

(本記事は、長尾義弘氏、中島典子氏の著書『金持ち定年、貧乏定年』(実務教育出版、2017年11月1日)の中から一部を抜粋・編集しています)

金持ち定年、貧乏定年
(画像=Webサイトより、クリックするとAmazonに飛びます)

はじめにいまから始める定年プロジェクト

55歳といえば、まだバリバリの現役。

定年を迎えるのは5年後、10年後といった先の話になりますから、実感が湧かないかもしれません。

しかし、定年は着々と近づいてきます。

「間際になったら、ちゃんと考えるよ」と悠長に構えていては、準備不足のままその日がやってきてしまいます。

定年に向けた準備は50代から始めておくことが大切です。定年で退職をすれば仕事はひと区切りつきますが、あなたの人生は終わりではありません。

そこは第2の人生を踏み出す、新たなスタート地点だともいえます。

日本人の平均寿命は男性が80歳、女性が87歳です。

60歳からの平均余命を見ると、男性は23.67歳、女性は28.91歳となっています(厚生労働省平成28年簡易生命表)。

仮に65歳で退職したとして、その先にはおよそ20年の人生が待っているわけです。

しかも、いまでは100歳前後という長寿も珍しくありません。
100歳まで生きるなら、老後生活は35年です。
なんと定年後も、人生の3分の1が残っている計算になります。

どれほど長い時間を過ごすことになるか、おわかりいただけたでしょうか。

55歳は人生の折り返し地点です。ライフステージにおいて節目となる定年や、リタイアしたあとの生き方について考えるには、いいタイミングなのです。

とはいえ、定年すら現実味がないなかでは、なにをどう考えるのか戸惑ってしまう人も多いでしょう。

そこで、本書では定年を2段階に分けて見ていきたいと思います。

前半は定年前の現状分析と、定年後の資産計画です。

我が家の家計はどういう状況になっているのか。
定年後の生活にはいくら必要なのか。
定年後の収支のバランスは、そうした現状を把握するとともに、足りない老後資金の増やし方も提案します。

老後の生活設計は、このタイミングで始めておかないと手遅れになってしまいます。

一方、後半は定年1ヵ月前からの実務的な手続きを解説し、あわせてお得になる裏ワザなども紹介します。

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金持ち定年と貧乏定年のわかれ目

定年後のプランを思い描いたことがあるでしょうか。60歳で完全にリタイアし、あとは悠々自適に暮らす。

心機一転、新たに起業して一国一城の主になる。

再雇用や再就職で、65歳までは働く。

65歳といわず、働けるだけ働く。

あなたの未来には、さまざまな選択肢があります。

しかし、定年を迎えてから「さて、今後はどうしよう」と考え出したのでは遅すぎます。

60歳以降の人生を成功させるかどうかは、それ以前に立てた入念な計画にかかっているといっても過言ではありません。

定年後の生活設計において、「お金」は重要なキーワードです。

世知辛い話に聞こえるかもしれませんが、暮らしていく上でお金が欠かせないのも事実。
これから先のお金を考えることによって、定年後のイメージがより具体的に、そして現実的になってきます。

手持ちの老後資金と年金などの収入で、働かなくてもある程度は大丈夫なのか。
もう少し働いたほうがいいのか。それとも、無理をしてでも働けるだけ働くべきなのか。

大切なのは、経済的な側面から見えてくる方向性です。

老後資金に余裕がないとわかれば、再雇用や再就職といった選択も浮上するでしょう。

仮に生活費が300万円かかるとします。働かなければ、まるまる300万円が出ていくだけです。一方、働いて200万円の収入を得られたなら、支出は100万円ですみます。

3年間働いたとすると、家計の収支に600万円もの違いが出るわけです。この差は大きいですよね。60歳前より給料が下がったとしても、働くことで明らかに家計は助かることになるのです。

「せっかくのんびりできると思っていたのに……」と考えていた人には恐縮ですが、定年後にお金を増やすのはなかなか難しいといえます。 老後資金が切羽つまってからでは対処法にも限りがあるのです。

近ごろは、「老後破産」「下流老人」などという言葉もよく耳にします。

長寿の時代とあって第二の人生を楽しむ時間が増えるのは嬉しい反面、長生きする分お金も必要になります。高齢者の生活苦は、いまや深刻な社会問題の1つです。

プロローグ金持ち定年と貧乏定年のわかれ目

老後破産を引き起こす原因としては、次のようなものがあげられます。

・中高年からの思わぬ収入の減少
・医療費がかさみ、蓄えがなくなった
・金銭感覚を変えられず、収入に見合わない生活をした
・子どもが面倒を見てくれなかった
・退職後も住宅ローンが残った
・退職金が思ったより少なかった

これらは誰にでも起こりうる問題ですが、みながみな「貧乏定年」になるわけではありません。

「そりゃあ、蓄えが豊富な人は困らないだろう」と思いますか。じつは、明暗を分けるもっと大きなポイントは、お金を計画的にコントロールしているか否かにあるといえます。

意外なことに、収入が少なくても生活を切り詰めながらやりくりできていた人は、定年後もあまり困窮しません。逆に、現役時代に年収が1000万円を超え、生活が派手だった人ほど貧乏定年になりやすいのです。

彼らは節約とは無縁の暮らしを送ってきました。定年後に収入がガクンと下がっても、おいそれとはギャップに対応できません。

いままでと同じようにお金を使いまくっていたら、毎月大赤字になって当然です。

たとえば、年金が年額で300万円、貯蓄が5000万円あるとします。これほど潤沢な資金があれば、普通はゆとりのある暮らしができます。ですが、1年間に800万円を使い続けたらどうなるでしょう。

毎年500万円が貯蓄から出ていくのですから、10年しか持ちません。あとは年金300万円だけの生活になります。

ライフスタイルを見直せばなんとか暮らしていけるでしょうが、現役時代の金銭感覚を変えられず、老後破産に至るケースは多いのです。

もっとも、収入の多寡に関係なく、この心理はどなたにも当てはまります。長年維持してきた生活レベルは、そう簡単には落とせません。

だからこそ、早めに現状を把握し、対策を立てることが大切になってきます。足りない分を積み上げる、無駄を省くなど事前に手を打っておくことができれば、老後破産は避けられるはずです。

定年まで時間があるいまなら、まだ十分に間に合います。豊かなシニアライフを送るためにも、しっかりプランを練っていきましょう。

あなたは自分の退職日がいつか知っていますか

たとえば、60歳になった日でしょうか。それとも60歳になった年度末でしょうか。この差は大きいですよね。

わからない人は、すぐに会社の規定を確認しましょう。

さて、定年で最も変わる部分といえば、仕事と答える人が多いと思います。この時期のキーポイントは、ズバリ「仕事」です。

あなたの前には、定年リタイアする、あるいは働くという2つの選択肢があります。 どちらを選ぶかによって、家計にも大きな影響が出ます。

ですから、自分ひとりで決めるのではなく、家族とも早めに相談しておくといいですね。また、定年にまつわる実務も確認しておきたいものです。

失業等給付(基本手当)、健康保険、自分の年金、妻(配偶者)の年金など、定年した直後にはやるべき手続きが満載です。

退職する年齢が60歳か65歳か、さらには65歳以上も働き続けるのかといった状況によっても、手続きは変わってきます。

具体的に動き出すのは定年を1ヵ月後に控えたあたりからになりますが、事前に把握しておくことは大事です。というのも、選択肢は1つとは限らないためです。

手続きを終えてから、あちらがよかったと悔やんでも後の祭り。お得な方法を知っていれば、老後にも大きな差がつきます。

「定年は手続きを知り、賢く選ぶ」これが金持ち定年への第一歩です。

55歳からの定年準備

さあ、老後の収入をまとめてみよう
定年後のプランを立てる第一歩として、まずは老後に関わるお金について具体的に見ていきましょう。

最初は収入です。

収入は夫婦であればそれぞれにチェックします。
妻は専業主婦だからといっても、受給年齢に達すれば公的年金があるはずです。
これも大事な収入源です。

60歳以降も働くかどうか決めかねている人は、給与がある場合とない場合を比較してもいいかもしれません。

定年後の大事な収入源は「年金」です。

まずは年金の基本を押さえておきましょう。

年金とひとくくりにしていますが、公的年金には「国民年金」と「厚生年金」の2つがあります。国民年金から支給されるものを「老齢基礎年金」、厚生年金から支給されるものを「老齢厚生年金」と呼びます。

老齢基礎年金は、職業を問わず受給資格がある人すべてが受給できる年金です。
一方、老齢厚生年金は会社に勤めて、厚生年金に加入した人が対象になります。

つまり、会社員は2種類の公的年金を受け取れるわけです。

給料から天引きされているので気に留めなかったと思いますが、両方の保険料を納めていたのです。

さて、今後の資金計画を立てるためにも、いつから、いくら年金がもらえるのかは気になりますね。

これは「ねんきん定期便」で確認できます。

年金は原則65歳からの支給ですが、それより前にもらえる人もいます。
金額はあくまでも現状を元にした見込みですが、大まかなことはつかめるはずです。

ねんきん定期便は毎年誕生月になると、日本年金機構から国民年金・厚生年金保険の加入者(被保険者)に送られてきます。

節目の年といわれる35歳、45歳、59歳は封筒で、年金加入記録の確認方法などを詳しく記したパンフレットが同封されています。 それ以外の年はハガキです。

50歳を境にして、内容にはちょっと注意が必要です。

50歳以上はこれまでの加入実績に応じた年金額から、老齢年金の見込み額へと記載が変わります。

実際に受け取る年金により近い金額になりますから、ここは必ずチェックしましょう。

もうひとつ、年金の加入期間も忘れずに確認してください。もらえる年金額は、加入年数に応じて変わってきます。

2017年の8月から要件が緩和され、10年以上加入した人には年金が支払われるようになりました。

加入記録に記載されていない職歴や国民年金の加入期間があるときは、できるだけ早めに年金事務所へ記録照会を申し出ましょう。漏れがあると、年金額にも影響が出る恐れがあります。

プロフィール

長尾 義弘 (ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。 http://neo.my.coocan.jp/nagao/

中島 典子 (なかじま・のりこ)
広尾麻布相続センター、中島典子税理士事務所代表。税理士、社会保険労務士、CFP。起業家の創業から税務会計・資産形成・相続事業承継までのトータルサポート業務、FP関連書等の執筆、講演、子どもからシニアまでの金融経済教育で活動。著書『会社が知っておきたい補助金・助成金の活用ガイド』(大蔵財務協会)、共著に『いまからはじめる相続対策』(日本実業出版社)、『FP技能士2級AFP 問題集&テキスト』(成美堂出版)など。 http://tax-money.jp

【保存版】2019年、知らないと損する「お金のはなし」
相続対策に失敗した「元富裕層」の悲惨な末路