「国の借金が1000兆円超え」や「アメリカの債務上限問題」といった報道で政府の負債について耳にする一方で、政府の資産について知る機会は少ない。バランスシートの分析にあたっては負債と同様に資産も重要な要素である。

2015年『エコノミスト』誌と『フィナンシャル・タイムズ』紙でベストブックの1冊に選ばれた本書は、タイトルの通り政府の資産に注目し、資産管理の問題とその対策となり得る具体的なアイデアを提示する。財源問題で揺れる各国政府にとって、資産を活用すれば社会の厚生が高められるという本書のメッセージは今後の政治の重要論点となってくるだろう。

政府の隠れ資産
著者:ダグ・デッター、ステファン・フォルスター、小坂恵理(翻訳)
出版社:東洋経済新報社
発売日:2017年1月20日

政府のずさんな資産管理

日本では近年、政府によりコーポレートガバナンス・コードがまとめられ上場企業もコーポレートガバナンスの遵守に取り組んでいる。これは財テクによる不良資産の所有や損害の隠蔽などで企業の価値を毀損し、所有者である株主に損害を与えた過去の反省から発展してきたものである。

政府と民間企業を同じように扱うのは無理筋なことが多いが、政府の資産管理についてはコーポレートガバナンスの考え方を取り入れるべきだという。政府資産の所有者は納税者という株主であり、資産は社会の厚生を最大限に高めるよう運用し株主価値の最大化を目指す仕組みが必要なのだ。

しかし、政府の資産運用は現状かなりずさんだ。不要な資産を抱えるだけでなく、不動産の登記制度の不備により正確な情報を持っていなかったり、道路や橋といったインフラを評価対象としていなかったりする。

このように資産の全体像が把握できていない状況でも、IMFの推計では金融資産と非金融資産の合計はほぼ全ての国で公的債務の総額よりも大きくなる。日本も例外ではない。これだけの資産を賢く運用し少しでも利益率が改善できれば、公共部門に多額の財源と社会の生産性向上をもたらすことは間違いない。

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